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彼の家に来てから一週間。 少しずつ彼のことを知り始めた。 少なくとも彼はやくざではない。 チンピラとかでもない。 顔が怖いだけで。 でも普段何の仕事をしてるか聞いても答えてくれなかった。 「あんた家政婦向いてるよな。」 「え?」 「田所見つかってもうちの家政婦やってくれへん?」 「いいけど、ほんとはそういう相手見つけた方がいいんじゃないのか?まだ若いんだし。」 「あんたまだ分かってないん?俺、ゲイやで?」 「え?そうなの?」 「そうやなかったらあんたに手出さへんやろ。」 「からかってるだけなんだと思ってた。だってなんだかんだ言いながら本気で俺を犯そうとはしないから。」 「最初はそのつもりやったけど。何か拍子抜けしたというか。」 「こんなおっさん相手しないで、ちゃんといい人見つけなよ。」 「そんな歳変わらんやん。あんたがおっさんなのは見た目やなくて中身。したいこと見つかったか?」 「いや。でも今の日常悪くないって思ってるよ。いつか終わりが来るって分かってても。」 俺がそう言うと彼は後ろから抱きついてきた。 「あんた可哀相やな。」 「同情?」 「なんか不憫やわ。一人で虚勢はって生きてきた人間は甘えることができひんくなる。」 「そうだね。」 「借金した親のこと恨むこともできひんなんて。」 「恨んだとこでもう死んでるし。何も文句言えない。」 「俺は言うたけどな、棺桶に向かって。育てる気ないんやったら産むなボケ!って。」 「母親に?」 「俺産んですぐ捨てよった。それきり会ってなくて、初めておうたんがお通夜やった。アホな母親で無免の男とドライブして事故って死によった。まだ28で。」 「そうか。」 「未だに思うで。俺は何のために産まれてきたんやろって。」 「そんなこと誰にも分からない。分からないまま生きてるんじゃないか。」 「...って、なんであんたとこんな話してるんやろ。」 スルッと手を離して彼は出ていった。 知らない人間だから話せることもある。 俺はずっと一人だったから、まるでこの世界で自分だけが不幸だと思ってた。 でも違った。 みんなそれぞれ色んなことを背負って、抱えて生きてる。 ただそれを見せないように笑ってるだけで。 彼だってそうだ。 俺にはそんな強さなかった。 いつも自分のことで精一杯で笑うこともできなかった。 だから孤独になっていった。 その夜からしばらく彼は帰ってこなかった。 俺は一人広い家で取り残されてしまった。 この家に来るまでずっと一人だったのに、今は一人でいることが寂しいと感じる。 ご飯も美味しくない。 酒も。 ベランダで月を眺めながら初めてタバコを吸ってみたがとても吸えたものじゃなかった。 何が美味しいんだろう。 すると、玄関のドアが開く音がした。 「びっくりした。何で電気つけてへんねん。」 「いや、月がきれいだから。」 「てか、何でおるん?」 「何でって、帰ってくると思ってたし。」 「別に出ていってもよかったのに。」 「どこ行ってたの?」 「仕事でちょっと。飯は?」 「何か食欲なくて食べてない。」 「俺がおらんくて寂しかったんか?」 と彼は笑いながら言った。 「そうだな。楽しくなかった。」 と真面目に答えた。 すると彼に腕を引っ張られた。 「俺も寂しかった。もし家に帰っておらんかったらどうしよって思ってた。」 「もしかして、試した?」 「もしまだ家におったら今度こそ絶対、」 「アホちゃうか。」 「え?」 「そんなアホなことして時間の無駄だろ。」 「...ほんまやな。」 「俺のこと試した罰や。」 俺は何故か腹が立って彼をベットに押し倒した。 なにも言わせないように唇を塞いで、服を脱がしていった。 男同士のセックスなんてどうやってするのか分からないまま何となくでやってたらさすがに、 「いやいや、いきなり突っ込んだら痛いて!」 と止められた。 「え?あぁ、じゃあどうするの?」 「ええわ、俺自分でやるから。」 そう言ってジェルみたいなものをお尻の穴に突っ込みはじめた。 「見るな、恥ずかしいから。」 と言われたが、恥ずかしがってるのが可愛くてじっと見てた。 「見んなって。あんた隠してたけどホンマはドSやろ。」 「え?あ、そうなのかな。」 自分でも気付かなかった。 「はい、準備できた。」 「何かムードないな。」 「うっさい。はよ突っ込めよ。」 「ダメだ。もっと可愛く言ってくれないと。」 「え?」 「言えよ。俺が欲しいって。」 「...欲しい、早くして、」 そう潤んだ目で言われた瞬間プツッとなにかが弾けた音がした。 気付けば朝方までヤりどおしてた。 記憶が飛び飛びであんまり覚えてない。 けど、彼がイキながら泣いてた顔だけは鮮明だ。 「キスマーク付けすぎやろ。」 体を洗いながら彼が言った。 「ごめん、何かぶっ飛んでた。」 「コンドーム一箱使いきったし。」 「はじめたら止まんなくて。」 「やめろ言うてんのにやめへんし。」 「それはお前が煽ってる顔してるから。」 「煽ってへんわ。」 「そんな嫌だったんならもうしない。悪かった。」 「嫌、ではない。むしろ、今までで一番よかった。」 「でもなぁ、また歯止め効かなくなるかもしんないしな。」 「別にいい。だから、」 「だから?」 「また抱いて、ほしい...ってなに言わせんねんアホ!」 「可愛い。」 「はぁ?」 「よがってる顔とか、赤くなってる耳とか。可愛いとこだけ全部覚えてる。」 「そ、そんなんはよ忘れろ!」 彼は照れてシャワーをこっちに向けた。 この光景もまた懐かしい気がした。 前にもこんなことがあったような。 なんだろう、記憶の断片が裏返ってるような感覚がする。 「どないしたん?聡」 そして彼にそう呼ばれたとき、全てが表に返っていった。 「龍一って、お前の兄貴の名前だろ。」
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