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彼は黙ってしまった。 「まだ親父がいた頃、隣の家にお前ら兄弟が住んでて家族ぐるみで仲良かった。親父が死んで引っ越すまでは。」 両親が仕事で帰りが遅いときはよく晩御飯ご馳走になったり、風呂に一緒に入ったりした。 まさか彼があのときの。 「思い出したんならしゃーない。ホンマのこと言うわ。あんたの親父がした借金、俺の親父のためやってん。」 「え?」 「うちの親父、変な奴に騙されてな借金作ってもて、あんたの親父に相談したら肩代わりしてくれたんやて。でも亡くなってから分かってんけど、肩代わりしてくれたお金、借金したお金やって。」 「なにそれ。初めて聞いた。」 「知ってんのうちの家族だけやから。で、お金返そうと思ってあんたの家族探したけど見つからんくて。やっとあんたに辿り着けたんが一ヶ月前やった。」 「苗字変わったり住むとこ転々としたりしたからな。」 「辿り着けたんは田所のおかげやってん。偶然田所に会って、あんたのこと聞いた。」 「じゃあ、田所がいなくなったんは嘘?」 「いや、それはほんま。1000万もほんま。でもやっと田所捕まえて、あんたの連帯保証人もなかったことにさせた。」 「どういうこと?」 「うちの親父のせいでほんまにすまんかった。あんたの人生めちゃくちゃにしてもた。だから、絶対もうあんたに苦労してほしくなかったんや。兄貴と、あんたのこと救いたかった。」 「この家に匿ってたのは借金取りから守るため?」 「そう。これしか思い付かんかった。悪かった。」 「別にお前が悪い訳じゃない。元はといえば親父が俺たちになにも言わずに。」 「うちの親父とあんたの親父さん、昔付き合ってたんやて。親父の遺品の中に日記みたいなんがあって読んでもた。そこには二人の思い出が一杯書いてあった。でも世間の目とか親のこととか色んなことがあって一緒にはなれなくて。」 「隣の家に住んだのは偶然だったのか。」 「分からん。でももしかしたら運命やったんかもな。おかんが俺ら捨てて家出ていったんもそのことが原因やったんかもしれん。」 「あほらし。」 「ほんまな。」 「でも親父が借金してでも助けたかった気持ちは分かる。愛してたんだな、きっと。」 「うん。」 「ありがとう、和真。」 「え?名前覚えてたん?」 「思い出した。そう言えばいっつも龍一と俺の間に入ってきて邪魔ばっかしてたな。構ってほしくて。」 「うるさいな。」 「可愛かったな~。まぁ、今も可愛いけど。」 「だ、だまれ!」 その後、田所に会い正式に謝罪を受け入れ、久しぶりに龍一にも会った。 「うちの弟が逆に世話になったな。」 「いや、俺の方こそありがとう。」 「ほぼあいつが一人で頑張ってたけどな。絶対お前を助けるんやって。あいつにとってはお前が初恋やったみたいよ。」 「え?」 「ふつつかな弟ですが、これからもよろしくお願いします。」 そう頭を下げられ、頭を下げ返すしかなかった。 「で、和真って何の仕事してるの?」 「え?知らんかった?あいつああ見えて社長やで。ほら、あのビルあいつの会社。」 と指を指されたのが彼の家の近くにある高層ビルだった。 「マジか。」 「これからはあいつに甘えたらええ。何でも好きなん買ってもらえ。したいことしたらええ。お前には人生楽しんでほしい。」 そう言われたものの、やはり貧乏性は直らず。 和真に色んなとこに連れていってもらって、 「何でも欲しいもん買ってエエで!」 と言われても困った。 で、結局いつも通り100均に行って買い物をする。 「いやー、これいるかな?」 と悩んでると後ろからやってきてかごに入れられる。 「ほんまにこんなんでエエんか?服も安いとこでしか買わんし。」 「いいんだよ。高いもの着ても似合わないし。」 「まぁ、確かに。」 「うっさいなぁ。」 「あんたはなに着ても似合うってこと。」 「お前は俺の体にしか興味ないもんな。」 「ち、ちがうわい!変態が。」 それはあながち間違ってはない。 俺は今まで自分のことを分かった気になっていたが全く分かってなかった。 和真と正式に一緒に暮らし始めてから、ほぼ毎晩やることやってる。 まるで今まで鬱積してたものを発散するように。 そしてそのお陰か肌艶もいいし、若返った気もする。 仕事を辞めてジムに通いだしたが、インストラクターさんにやたら誘われる。 しかも男。 「浮気したらチョン切るからな。」 と本気の目で言われたので全てお断りしてるし、何なら浮気よけのために薬指に指輪をはめさせられている。 俺より和真の方が若いし、モテそうだけどな。 なんせ社長だし。 色んな人が寄ってきそう。 そう思っていたが、彼が俺にベタボレなのを何故か社内の全ての人が知っているようだ。 「社長、オープンなんで休憩室でもどこでもでかい声であなたの話するんですよ。」 と秘書の方に言われた。 すげー恥ずかしかった。 やっぱアホなんだな。 でもそんなアホなとこに俺は毎日救われてる。 いつ死んでもいい、そう思ってたのに。 今は明日が来るのが待ち遠しい。 どんだけ過剰摂取しても足りない幸せを毎日もらってる気分になる。 「そういえば、タバコやめたの?」 「やめた。」 「なんで?旨い旨いって吸ってたのに。」 「タバコやめたら飯が旨く感じるって聞いたし。あとは」 「ん?」 「あんたの味が知りたくなった。」 「何、誘ってんの?その目。」 「は?ちゃうし!」 「真っ昼間だけどいいよ?」 「アホか!」
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