Dyed & Died

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 厳しい冬の日だったという。俺は北海道の、とある港町で生まれた。  親父の事は何も知らない。お袋については、おぼろげながら、いくらか憶えている。お袋は色白で細く、地味な女で、ひょっとするとカマトトぶってるとも思われそうな、純朴な性格だった。  そんなお袋と、俺は生まれて間もなく、引き離される事となった。  連中からしてみれば、俺たちは金の卵ってとこだろう。そして俺や、俺の兄弟、その他同期の仲間たちにとっては、地獄の責め苦のような日々が、ここから始まったというわけだ。  俺たちは海辺で塩水に頭からぶち込まれ、続けて凍てつくような寒さの中に放置された。そうして何の反抗もできなくなったところで、俺たちは皆、家畜のようにトラックに押し込められて、奴らの本拠地へと送られる事となった。  着いた場所は、福岡だ。  悪名高きその土地で、俺たちは連中のお眼鏡に叶うよう、ありとあらゆるものを仕込まれた。酒も浴びるように飲まされたし、半島から仕入れたヤバい粉にまで手を付けさせられた。全ては、奴らの欲望を満たさんがために。  最早俺は、俺ではなくなった。染まっちまったんだ。身も心も。真っ赤な、血の色に。  だが、そこまで身を堕しても尚、この俺が報われる事はなかった。僅かに芽生え始めた野心すら、満たされる事はなかったんだ。  最終選別。兄弟や仲間たちが、奴らによって品定めされる。結果如何(いかん)で、その後の行き先が決まるわけだ。  俺は二流の烙印を押された。なんでも奴らには、俺の容姿が気に入らないらしかった。けれど俺にはもう、それに腹を立てたり嘆いたりする気力はなかった。何の感情も残っていなかった。  俺はどこかの工場へと送られると、そこで体を、無惨に引き裂かれた。  俺の体の欠片(かけら)一つ一つを、白くて温かい何かが包み込む。俺は悟った。これが、死か、と。    △ △ △ 「お昼ご飯、おにぎりにすっと? ウチもそうしよ~」 「アッコちゃん、おにぎり、なんが一番好き?」 「え~っと、ウチはね~……。やっぱりこればい。明太子!」
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