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信号が青に変わり、歩きだした私の背後で不意にテレビのような音が聞こえた。
大音量でイヤホンも刺さずに動画でも見ているかのような。
健やかなるときも、病めるときも
これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け
その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか?
「誓います」
耳元で聞こえた、その声に背筋が粟立ちビクリと足を留めた。
「誓いますって、萌香も言ってくれたじゃない」
恐る恐る振り向いた先で、微笑む銀縁メガネの男。
「また会えたね」
そう言ってゾクリとするような笑顔を浮かべた彼は、路上で私を無理矢理に抱きすくめる。
「いやっ、離して」
慌てて逃げようとする私を力づくで抑え込む。
点滅を始めた信号は赤に変わり、車が動き出し始めた。
私たちを眩しく照らすヘッドライト、鳴り響くクラクション、急ブレーキの音、誰かの悲鳴。
途切れ行く意識の中で最後に聞こえてきたのは、きっとあの日の声にならないつぶやき。
「僕らはきっと、何度でも出逢えるから」
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