再 会

10/14
前へ
/14ページ
次へ
「お、かえりなさい」 「疲れてるんじゃない? ため息、聞こえてた」  聞かれていたのか。というか、いつから後ろにいたの?  心臓がバクバクと嫌な音をたて始める。  そんなに疲れてるなら、早く仕事を辞めて家に入ったらどう?  昨日のケンカが再現されそうで首をすくめた。   「ごめんなさい、今日こそは早く帰ろうと思ってたんだけど」 「だよね。だって、結婚記念日だもんね」  マズイ、と目を反らした私のことを司は見逃してはくれない。 「まさか、忘れてた?」  メガネの奥で司の目が冷たく光っている。 「そんなことないよ? 後でって思っていたんだけど、ね」  前から用意していた細長いギフトボックスを鞄の奥底から取り出し渡す。  良かった、これだけは用意しておいて、とホッと胸を撫でおろした。 「ありがとう、でも僕にはもう少し暗めの色が似合う気がしない?」  私の手渡した水色のネクタイを失笑しているかのように唇だけをあげて眺めている。 「ごめんなさい、次はそうするわ」  ごめんなさい、次は気を付けるから。  怒らせたら夕べのように、物に八つ当たりをするから謝らなきゃいけない。  世間から見たら品行方正、優しく穏やかな夫。  モラハラで私が苦しんでいることなんか誰も知りやしない。  せっかく幸せになったと喜んでいる親にだって言えない。 「僕からはこれ」  首にかけられたネックレスの石が重い。  まるで首輪みたいだ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加