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それら全ての音や声はエプロンポケットの中のボイスレコーダーに録音されていた。
強く掴まれて二の腕に出来た痣は診断書をとった。
マンションを出て、すぐに実家に避難した私は、離婚届を彼に送り付ける。
「ねえ、どうしてだよ、萌香? なんで? どうしてわかってくれないんだよ!!」
ある日、私の会社にまで来て、ロビーで泣き崩れた司を不審者と勘違いをした上司が慌てて警察を呼んでしまい問題が大きくなった。
警察沙汰になったことにより、司の会社での立場は無くなり退職をしたと後に聞いた
マンションは私への慰謝料となり、最後にあったのは3回目の離婚調停の日。
小ぎれいだったはずの司のスーツはヨレヨレで、やつれ無精ひげまで生えていた。
「萌香、もう二度としないから、だから。やり直そうよ、やり直せるよ、萌香と僕なら、また最初から! そうだ、映画館のところからやり直してくれない?」
壊れた機械のように虚ろな目で私を見つめる司に首を横に振る。
もう無理なの、愛せないの。
しばらく私の顔を見つめていた司は声にならない声でなにかを呟いた。
それが何だったのかはその時の私にはわからない。
「ごめんなさい、別れてください」
何の感情も持たない私の声に最後に大粒の涙を零して。
何も覆らないことを覚悟したのか、司は離婚届に印を押してくれた。
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