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赤信号で足を止め、震えるスマホに目を留めた。
『今、どこら辺?』
『んっと、あと五分くらいかな。お腹空いたよ~!』
『今日は萌香の好きなオムライスだよ。早く帰っておいで』
尚人からのメッセージにハートマークのスタンプを返して一つ目の交差点を渡る。
離婚から三か月、今はもう司の影に怯えることはない日々。
風の噂で司は故郷の田舎に帰ったと聞いた。
精神的に疲れてしまって今は静養しているらしいとも。
『朝ごはん、パンでいい? 美味しいの買って帰ろうか?』
『うん、萌香に任せるよ』
尚人は結婚前に付き合っていた元彼だ。
私が缶ビールを浴びた翌日、家にまっすぐ帰るのが嫌で、ぶらついていた時に偶然再会した。
誤解したまま、別れてしまったことをその日知った。
日本に戻ったらプロポーズするつもりだったんだ、と再会した日に教えてくれた尚人に。
今は既婚者だということを報告する。
『そっか……、だよな、あれから二年だし……。でも、萌香が幸せならいいんだ』
優しそうな変わらぬ微笑みに涙が零れた。
幸せなんかじゃないって泣きだした私を昔のように抱きしめてくれた尚人に今までのことを全て話す。
『俺が守るから、萌香のこと。だから』
泣きながら交わしたキス。
ボイスレコーダーは彼が買ってくれたものだ。
司と暮らしたタワーマンションは売り払い、私は今、尚人のマンションに住んでいる。
お互いのことを思いやれること、そんな日常が愛しくてたまらない。
『今度こそ、俺が幸せにする。絶対に』
半年経てば、晴れて私はまた結婚ができる身となる。
尚人も私も今はただ、その日を夢見て暮らしている。
ささやかな幸せを噛みしめて帰り道を歩き出す。
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