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「さっきは、ごめんね」
弱々しく頭を振る私を、強く抱きしめる夫。
「まさか、あたるなんて思ってなくて。本当にごめんね、痛かったよね」
まだ半分以上残っていた飲みかけのビールを、怒りに任せて私に投げつけた夫。
避け切れずにいた私の頬にあたり、拍子に溢れかえったビールが私の身体に降り注いだ。
カランカランと床に転がったアルミ缶を拾い上げキッチンに置き、無言で浴室へと向かったのはもう三十分も前のことだというのに。
シャワーを浴びた今もまだ部屋中に、アルコールの臭いが充満しているみたいだ。
今夜のケンカの原因は、また私の仕事について。
彼からの『辞めて欲しい』、私は『辞めたくない』その押し問答。
『どうして、僕の言うことを聞いてくれないんだよ! 僕が萌香を養うって言ってるじゃないか!!』
従わない私に激昂した彼、そうしてビール缶は投げつけられたのだ。
結婚前に約束していた全てが少しずつ嘘に変わっていく中で、私にとって仕事は最後の砦なのだ。
自分というものを確立できる最後の場所だから、それだけは死守したい。
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