31人が本棚に入れています
本棚に追加
一方的なケンカの後、お約束のように必ず結婚式の動画を見る夫。
愛の誓いを再確認し自己嫌悪で泣き崩れ、私を抱きしめて必ずこう言う。
「愛してる、萌香。君がいなきゃ、僕が何もできないのを知っているだろ?」
「ごめんね、君を傷つけてばかりで」
「もう二度としない。許して、萌香」
判を付いたようなお決まりの台詞。
この人は『二度と』という言葉の意味を知っているのだろうか?
知ってて使っているのならば頭の弱い人間か、自分に都合の悪いことは忘れてしまう主義の質の悪い人間のどちらかだ。
夫の場合は確実に後者だ。
つい一週間前にも聞いたばかりの『二度としない』は、今年に入ってもう何度目だろうか。
傍から見たら幸せを絵に描いたような夫婦生活に見えているだろう。
結婚と同時に夫が購入したタワーマンション。
広いリビングを挟んだ形のお互いの部屋にはウォークインクローゼットと備え付けのデスク。
二人で立ってもまだ余裕のあるキッチンや広々と足を伸ばせる湯船。
都内の一流商社に勤めるエリートで、顔だちも良い夫。
週末には手を繋いで食料の買い出しに出掛ける、そんな日々。
内情は違う。
私が望んでいた、いや、約束した結婚生活とは、初めから食い違っていた。
最初のコメントを投稿しよう!