31人が本棚に入れています
本棚に追加
夫のことは取引先の感じのいいイケメンとして認識していた。
物腰が柔らかくいつも笑顔で銀縁メガネの似合う、うちの女子社員から人気のある人だった。
「あれ?」
ある日、映画館から出たばかりの私に声をかけてきた爽やかなイケメン。
キャッチセールスか、それとも今時ナンパ?
私にこんなかっこいい人が声をかけてくるなんてありえない、人違いだろう。
見知らぬ顔を観て、怪しがり首を傾げた私に。
「すみません、怪しいものじゃない、とは思うのですが。ゴトー商事の野村です」
渡された名刺には野村司と名前があって、瞬間私は焦り出す。
「野村さん!! こちらこそ、すみませんでした。いつものスーツ姿とは違っていて、気づけずに……大変失礼いたしました」
「いえいえ。赤坂さんは会社でも普段着でも雰囲気が同じだったので、すぐに気づけましたよ」
「え?」
名前を呼ばれたのが初めてで驚いた。
名刺交換もしたことなかったし、多分挨拶程度でお辞儀を交わしたことくらいしかない。
かっこいいと言われている彼に認識されていたことに、驚きと少しの嬉しさで笑顔がこぼれた。
最初のコメントを投稿しよう!