春待つ彼と消えゆく私

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 藍色の花束は本当に美しくて、この花が咲くことを、彼とともに喜べたらどんなに良かったか。悔やむとも惜しむとも違う、泣き出しそうな感情が胸の内に渦巻いた。 「――レンテ」  絞り出すようなかすかな声に、レンテの表情が少し曇るのを感じる。  嫌な思いを、悲しい顔を、させたくなどなかったのに。 「――なんだい?」  応えるように問う彼の声音はあまりに優しい。彼はいつだって、ソフィオーネを慈しんでくれた。 「レンテは……春が好き? 冬は、嫌い?」  突然の問いかけに、レンテは少々戸惑ったようだった。ソフィオーネは顔を伏せたままだ。 「……確かに、春は好きだよ。けど、ここへ来てから、冬もすごく好きになったんだ」  レンテはソフィオーネのこわばった両手に自らの手を添えた。 「きみが冬の素晴らしさを分けてくれたから、僕は春の素晴らしさを分けてあげたいって思ったんだ」  暖かな声音が心へ染み入る。こみ上げる感情を一度飲み込んで、ソフィオーネは顔を上げた。焦がれた湖水色の瞳を見つめる。 「ありがとう。――とっても嬉しい」
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