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そこからは、レンテの他愛のない話を聞いた。雪解け水が流れる川の美しさ、鳥たちの鳴き声、生い茂り咲き誇る草花の話など、レンテは楽しそうに物語った。
別れ際に、レンテはいつもの笑みで告げる。
「春に咲く花には、きみの髪の色をした花もあるよ。楽しみにしていて」
「うん。楽しみに、してるね」
ソフィオーネも彼の言葉にきれいな笑みで応えた。けれど彼女の頬を、涙が伝った。
月日が過ぎれば過ぎるほど、森は冬の眠りから目を覚まし始めていた。
世界にあまねく冬をもたらせば、冬の女神と眷属たる妖精たちの役目は終わる。
冬の女神は春の神へと世界を渡して眠りにつくが、妖精たちは春風に溶け消える定めだった。
レンテから春告げの花束をもらったその日には、同じ年に創られた妖精たちのほとんどが風に変わってしまっていた。冬の名残をどうにか探して魔力に変えて、彼の前に姿を現すのもそろそろ限界だった。
今日眠りにつけば、もう二度と目が覚めることはないかもしれない。
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