春待つ彼と消えゆく私

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(これならきっと、あの人間も笑ってくれるかな)  仕事の合間に、妖精は女神に尋ねていた。人間とはどのような者で、何を好むのかを。  そこで聞いたことには、彼らは「仲間」や「きれいなもの」を好むという。「仲間」とは同族の人間のことらしい。それは妖精にも用意できないが、「きれいなもの」なら話は別だ。  氷の花を束ねてそっと一息吹けば、きれいなブーケができあがる。自分の体躯の何倍も大きなブーケに熱で溶けないよう氷の魔法をふりかけて、妖精が向かう場所は森の入口だ。  水車の家から少し離れたところで、妖精は目を閉じた。思い浮かべるのは窓辺の青年。初めて見た人間の大きさは、魔力をたくさん使いそうだった。もう少し小さな体をイメージする。  すると、妖精は人間の少女の姿に変わっていた。雪の上に両足で降り立つ。立つという行為は初めてでうっかり転ぶところだったが、手に持っていたブーケは無事で、ほっと胸をなでおろす。  おかしなところはないかと妖精は自分の姿を見回した。そこで、視界に入ってきた黄色のおさげ髪にため息をついた。ちゃんとイメージでは、あのきれいな氷雨色の髪になっていたのに。
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