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心を射止めるような笑みに、妖精は深く考えることもできずに首を縦に振っていた。そして再び「名前は?」と尋ねられ、窮地に達した彼女が答えたのが次の言葉。
「……好きに、呼んで。好きな名前で」
不思議そうに首を傾げた青年――レンテだったが、「あだ名かな?」と考え込むように視線を上げた。
「ソフィオーネ。ソフィオーネって、呼んでもいいかい?」
そうレンテは妖精へ手を伸ばし、妖精の黄色いおさげ髪を手に取る。妖精はびくりと体を震わせた。
数多産み落とされた妖精の中で唯一の黄色い髪は、出来損ない、変わり者の烙印だった。他の妖精たちはみな冬の色をその身に授かった。ひとりだけ違う色の彼女は、どうしても距離を置かれ蔑まれた。
「とっても綺麗だよ。たんぽぽの色だ。僕は、きみの髪がとっても好き」
その優しい笑顔に、妖精は何も言えなくなってしまった。嫌われてばかりのこの髪を、好きだと言ってくれる者が現れるなど思ってもみなかった。
妖精が何も言わないことに、レンテは少し不安そうな顔をした。気に入らなかったかな、と重ねて問われ、妖精は慌てて頭を振った。
「ソフィオーネ……大事にする。あなたがくれた、名前」
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