春待つ彼と消えゆく私

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 緊張で強ばっていた表情が、緩やかにほどけた。大事なものをしまい込む、優しい笑みをレンテへ向ければ、レンテも安堵したように表情が柔らかくなった。  この日から、妖精――ソフィオーネとレンテは逢瀬を重ねた。  ソフィオーネはたびたびレンテへ贈り物をした。それはいずれも、冬に閉ざされた幻想郷でしか見られないものばかりだった。冬の女神に創られたソフィオーネは、彼の笑顔とあたたかな言葉のために樹氷の森や氷の湖を飛び回り、彼へその景色を届けていった。  人間での暦で四月ほど経った頃、彼は「プレゼントがあるんだ」と話を切り出した。いつもソフィオーネにもらってばかりだったから、ようやく少しだけお返しができる、と彼はプレゼントを差し出した。  それは藍色の花束だった。雪を割って顔を出すその花は、春の訪れを告げる花である。 「庭で摘んだ花だよ。去年、雪が降る前に種をまいておいたんだ」  差し出された花束を受け取るソフィオーネの手はかすかに震えていた。 「春が来たら、きみに庭を見せたいんだ。たくさんの花が咲く庭になるよ」  きゅ、と花束を握る手に力がこもり、ソフィオーネはいたたまれなくなり視線を下げた。
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