明日は、なに履く?

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「では、仕切り直して」  着席しなおし、メガネをかけ直しながらミチルちゃんが話し出した。 「はいはあい! 黒いストッキングはどお? 良くない? 新しくない?」  意気揚々にメイちゃんが片手を真っすぐ挙げて意見を言う。  さっき泣いてたのに……なんて変わりよう。  私は微笑みを崩さずに若干呆れて、目を細めて見る。  静かに机を見つめていたミチルちゃんが、一拍置いてから「それ! それに決まり!」と急に顔をあげて大声で言った。  私はビクッとして組んでいた足をほどいた。  二人の視線が足にそそがれる。  ……この2人。私が好きって、私の脚だけ……好き? 「じゃあ、明日は魅惑の黒いストッキングでえ」  わーい! とバンザイしてメイちゃんは立ち上がり喜んでいた。  ミチルちゃんも異論はないとばかりにニコニコと笑っている。  私は楽しそうな2人を見て苦笑しながら教壇を降りようとした。 「いやあ、まってえ。もう少し」  メイちゃんが立ち上がってこっちに寄ってきた。  私の膝に両手を置き、可愛い犬のように上目使いでなつく。 「ずるい!」  ミチルちゃんも素早く立ち上がって、しなやかな猫のようにまとわりついてくる。 「本当に、カナエちゃんはスタイルが良いよね」 「だねえ! そこらの芸能人よりステキだよねえ。すっべすべえ、足に保険かけた方が良いんじゃなあい」 「……保険って、そんな、かけないよ」 「黒いストッキングって初じゃない?」 「だねだね! 思いついた私って天才じゃなあい?」 「メイってすぐ調子に乗るよね」 「なによおう、チルだって賛成したじゃん」  2人は私の足元でじゃれあいながらふざけ合っている。楽しそうに……。  脚を一通り愛でる言葉をくれるけど、私は心の中で不満に思う。  ――やっぱり身体が目当て。  なんて言い方は品がなさすぎるけど、この2人は結局私の脚しか好きじゃないんだろうなと、今はわりと本気で思っている。  3人で話していて、私の脚の話題でも最後は2人で盛り上がってる。  私だけ、蚊帳の外……みたい。  仕方ないけどさ。 「帰ろうか」2人から解放されたので、やっと教壇から降りられた。
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