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三冊目の日記に入っても、同じように私がまたリッカを好きになった、忘れた、思い出しかけた、忘れた、という流れが何度もあった。
私の記憶に対する違和感が少し結びついた気がした。
今までなぜ1人で暮らせていけたのかと疑問に思わなかったのは、それ自体忘れてしまっていたからなのだ。
そして今は、この思い出しかけの私に当たるのだろう。だが、今までの私はこの日記に辿り着いていない。
三冊目もずっと辛い文が綴られ続けていた。日記の文字にぼたぼたと涙が落ちて、インクを滲ませる。
私は三年も彼に辛い思いをさせていたのだ。三年‥私には想像もできないくらいに長い。
毎日、どんな思いで研究をしていたのか。
ふと大きな四つ窓から見えるのは大量の勿忘草。これはずっと彼が私の為だけに植えていた研究の数々。
三冊目はまだ書き途中のようだった。
後半は真っ白である。私は最後に綴られた言葉を見ようと、涙で滲む目を擦った。
【アンネは今日も俺を忘れていた。もう何回目だろうか。
200は超えている。本当はアンネを手放すべきなのかもしれない。だが、俺はそれをできそうにない。
もうアンネの絶望する顔には慣れてしまった。すまないアンネ。
俺はアンネを笑顔にしたいのに。そう、誓ったはずなのに。
俺を知っているアンネにまた、会いたい】
よく見ると、会いたい、の辺りがインクで滲んでいた。これは、私の涙じゃない。
リッカはあんなに怖い顔を作って、気持ちを隠していたのだ。先ほど優しく抱きしめられたことを思い出す。彼は私をこうするしかなかったんだ。
ごめんなさい、思い出せなくて。
最後のページを読み終えると、私は日記三冊を重ねておいた。机の上には小さな苗が何個も並べてある。私はその一つを手に取った。
「リッカ‥思い出せなくて、本当にごめんなさい。辛い思いを何度も何度もさせてしまったのよね。神様、どうか私の記憶を戻してください。リッカを苦しみから解放してください」
視界が涙で滲んでいく。頬を大粒の涙が伝っては、床に大きな染みを作った。
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