錬金術師は、妻を絶対に笑顔にしたくない

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最初は、あの仏頂面を見ることが恐怖だった。今は返事をできるようにはなったが、やはり怖いものは怖い。 しかしリッカは私に何も求めもしない所から、過ごす内に悪い人ではないのではないかと感情が芽生えた。 私は、リッカとの結婚の経緯が気になって仕方なかった。 この薬指の契約印は、合意の元でしかできないはずだ。 彼の記憶ないのが、とてつ不思議でたまらなかった。 これが、私がここに留まる理由だった。 掃除用具を全て片付けて、テーブル近くの椅子に座る。 「‥ふぅ‥」 一息つくと、もう立ちあがろうと思えなくなった。毎日この生活である。退屈でたまらない。 必要なものは全て家に揃ってるし、本当にすることがない。退屈なのである。 リッカは宮廷お付きの錬金術師のため、生活は昔の私より随分裕福なのだ。 「‥昨日は、お菓子作って‥一昨日は薬草で薬作ったっけ」 必要品のストックは余るほどある。私がすることは何もない。だからと言って、昼間から寝るなど怠惰な生活はしたくないのだ。 私は机に顔を伏せた。 すると、窓の外からコツンと何かが当たる音が聞こえてきた。 私は驚いて窓に駆け寄ると、そこにはリスが頬袋いっぱいに木の実を詰めて立っていたのである。 「わあ‼︎可愛い‼︎」 久しぶりの訪問者である。嬉しくなって窓を開いた。 リスは驚いたようにびくりと体を震わせるが、私が何もしないと思ったのか近付いてきた。 「どこから来たの?何を食べてるの?」 頬袋いっぱいに食料を詰め込んでいるせいか、鳴き声ひとつ出なさそうだ。 その代わりに私の腕から肩まで一気に駆け上がってくると、肩の上でくるくると回ってきた。 フワフワの尻尾が頬に当たって、思わず微笑んでしまう。 「ふふふ、あなた可愛いわ」 リスを撫でようと指先を伸ばす。しかし、私の指がその子に届くことはなかった。 ぐらりと体が倒れていく感じがわかる。体のどこにも力が入らない。 それと同時に、眠気が襲ってきた。 「アンネ‼︎」 激しい足音と共に、凄まじい叫声が聞こえた。 薄れゆく意識の中、今まで見たことの無い…絶望した顔のリッカが見えた。
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