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「ど、どういうことですか。結婚なんて‥私、知らないです」 「お前の左手の薬指を見ろ」 私は目線をゆっくりと移動させ、自分の指先へと向ける。 左手の薬指には結婚の時に出てくる契約の印‥ハート型の半分が浮き出ていた。 リッカと名乗る男は同じように左手の薬指を差し出すと、同じように半分だけのハートが浮き出ている。 確か、この印は合意の元でしかできないはずだ。 ということは、私は本当にこの人と結婚を‥? 「お前が20の時、俺が23の時に結婚した。覚えてないなら今から覚えろ」 男の声色はとても低く、怖いと感じるほどだった。私は震えながら静かに頷く。 男はそんな私を見て呆れたのか、大きなため息をついた。そして、「いいか。絶対に家から出ようと思うな」とだけ言って部屋から出て行った。 一瞬だけ見えた彼の表情は、苦しそうな顔をしていたように見えた。 荒々しい退場を最後まで見届けると、もう一度薬指に目を向ける。 私、本当に結婚していたんだ‥。 20歳の時ということは、3年前。3年も前から結婚しているというのに、男の記憶がまっさらない。 3年間私がどう過ごしたかは覚えているのに。 そこであることに気がついた。 ‥あれ。私、ずっと掃除をしていた記憶しかない。この家に引っ越して来たのも確か3年前だ。 3年前までは、外に出て買い物をしたり普通にしていたはずだ。だがここ数年間はずっと部屋の掃除をしていた記憶しかない。 辺りを見渡すと、埃ひとつ落ちていない部屋。そこから、私が掃除をしていたことに確証を持てた。 この3年間、私が生活していく上で彼がいたのではないか。ふと頭に疑問が浮かぶ。何もしていない私が稼げるとは思わない。 「あの人‥何も驚いてなかったな」 仮に3年間一緒にいたとして、私の記憶がないことに驚かないのか。男は淡々とした口調で物事を伝えていた。 普通、妻の記憶がなくなっていたらあんな風な態度が取れるだろうか。
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