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どうも日常と彼との関係が結び付かず、モヤモヤする。とりあえず、私は部屋を出た。
広いリビングはやはり私の家だと思い当たる。しかし、なんとも生活感溢れる部屋だ。一人暮らしには多すぎる食器や、二つ置かれた椅子。
明らかに「誰かと住んでいる」という光景だった。昨日までの私はそれに疑問を持たなかったのだろうか。
しばらく呆然と部屋の中央に立っていると、隣の部屋でボソボソと何か呟く声が聞こえた。
ふと目を向けると、そこにはひとつ部屋が。私の部屋の斜め向かいにある。
ここに部屋あったっけ‥あったよね‥
と、思いながら私はそっとその扉に近づいた。
「‥クソッ。どうしてまたなんだ‼︎あれほど対策していたのに‥っ」
隙間から部屋の中を覗き込むと、男が頭を抱えていた。そう、先ほどリッカと名乗る私の旦那という男だ。
「俺が‥あんなことしなければ‥」
先ほどの仏頂面からは想像もできない顔が垣間見える。なんだか胸が締め付けられる気がした。
私はどうして彼との記憶がないのだろう。結婚なんて大きな行事、普通は忘れるわけがない。
そっと扉から離れ、大きな窓に近づく。窓から見えるのは、大量の勿忘草。この家に来てからこんなに咲いていたっけ‥。
その時、突然強い風が吹いてきたかと思えば、勢いよくガタガタと窓を揺さぶった。
「わっ」
思わず声が出る。
「アンネ‼︎」
バァンッと凄まじい扉が開く音と共に、リッカが部屋から飛び出してきた。突風とセットで目をまんまるとさせる私を見て、リッカは一瞬安堵の息をした。
リッカは一直線に私の元に向かってくると、ふわりと優しく抱きしめてくる。
男性免疫のない私だ。いくら旦那と言っても緊張してしまう。
「お願いだ‥アンネ、どこにも行かないでくれ‥」
「‥」
男は泣いているのだろうか。いや、そんなはずはない。
何故だか胸の奥を、誰かに引っ掻かれたような強い痛みがした。
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