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私はぎゅっと胸を締め付けられる思いから、次のページを開く。 同じようにつらつらと書いてある日記を読もうとしたが、私はぴたりと手を止めた。 「‥これって‥」 日記は前のページとは比べ物にならないほどに荒れていた。丁寧な字で書いてあったものとは正反対に、グチャグチャとただ怒りをぶつけているような文字に見えた。 【俺が、仕事のことばかり考えていたせいだ。俺があんなもの作ったから。 さっさとアンネに言ってからすればよかったんだ。宮廷の錬金術師なんてどうでもいい。 お願いします、神様。俺のアンネをかえしてください】 ‥ 私はきっと、この日にリッカの記憶を失ったんだ。そう、確信した。 荒れ狂った文字を指先で撫でる。辛いという感情が心を揺さぶっても、私は彼のことを思い出せなかった。 すると、本の隙間にメモがあることに気がついた。何かの紙の切れ端のようだった。 『宮からの依頼 第二皇女の記憶を一部失くす 黒いチューリップからクッキーを作り、第二皇女に食べて頂く 黒いチューリップ→私を忘れて 男の名前を添えて 皇女が笑ったら任務成功』 「黒い‥チューリップ?」 くるりと部屋を見渡すが、あるのは大量の勿忘草の花だけである。そもそも、私は黒いチューリップなど見たことがない。 私は嫌な予感がして、日記のページをまた捲った。 ⋯ アンネが俺を忘れて1日目の朝。もうどうしようもない。俺が作ったものなのに、治す方法はまだわからない。 前向きに行こう。アンネはきっと俺を思い出してくれるはず。 ‥ アンネが俺を忘れて1日目の朝。アンネはまた俺を忘れていた。俺は笑うと記憶が消えるというポジティブなものを作ったはずだが、これは残酷かもしれない。 アンネをどうにか笑顔にしないで、日々を過ごさないといけないようだ。そうだったら記憶が保持できるはず。 ‥ アンネが俺を忘れて1日目。気分転換に町に行ったが、アンネが倒れてしまった。アンネが起きたら俺のことを忘れていた。どうしたものか、苦しい。 ‥ アンネがまた俺を忘れてしまった。俺はどうにかアンネが笑わないようにしないといけない。まだ何も解決策がないのだから。
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