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「ニーナくん、落ち着いて聞いて欲しい。マルクスくんが……」
ニーナ・フォン・リヒターが、婚約者の死を知らされたのは、夕刻のことだった。
永遠の命を持つ、人造人間。
それを生み出す実験の最中、突如装置が暴走し、爆発事故を起こしたのだ。
ふたりが来月挙式予定だと知っていた所長は、受話器の向こうにいる彼女に詫びる。
「すまない。謝って済むことではないが……本当にすまない」
「所長」
ひどく冷静な口調で、ニーナは切り出した。
「彼の亡骸は、原型をとどめているのでしょうか?」
思いもよらぬ質問に、所長は言葉に詰まる。
答えを待たず、彼女はさらに続けた。
「入所時の誓約書で、万が一の事があった場合、亡骸を提供することに、彼も同意していましたよね?」
「ああ。確かにそうだが……」
「今回の実験は、彼と私の……ひいては人類の夢。もし私にすまないと思うなら、爆発を免れた装置で、彼の亡骸を素体に実験していただけませんか?」
「ニーナくん……」
異様な熱を帯びた彼女の言葉に、所長は気圧される。
「彼を生まれ変わらせるんです。……永遠の命を持つ、人造人間に」
確信に満ちた口調でそう告げた彼女は、穏やかな笑みを浮かべていた。
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