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事故原因の特定、および実験手順の見直しが終わり、マルクスの亡骸を素体とした人造人間の、起動実験が行われることが決定した。
彼女の悲しみが少しでも癒えるなら。
事故調査チームの一員として、精力的に動いていたニーナに対する周囲の目は、総じて温かいものだったが、中には彼女の精神状態を危ぶむ声もあったのは事実だ。
けれど、ニーナはまったく意に介さなかった。
もう一度また、マルクスに会いたい。
それだけを願い、彼女は実験の日を待ち続けた。
そして、実験当日。
ニーナは、実験装置の中に横たわるマルクスを見つめていた。
本来、実験棟にチーム以外の人間は入れない決まりだが、所長のはからいで、同席を許可されたのだ。
「マルクス」
培養液の中、防腐処置を施されたマルクスは、まるで眠っているようだ。
頭部には電極が埋め込まれ、身体のあちこちが縫い合わされてはいるが、そんなことはかまわない。
「信じてるわ。きっとまた、会えるって」
実験開始の合図が出され、ニーナはその場から離れた。
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