5人が本棚に入れています
本棚に追加
ニーナは所長に直訴し、実験後の経過観察、および教育役の任を担うことが決まった。
だが、彼を実験装置の外に出すのには、実に2週間の時を要した。
身体はきちんと定着しているか。
電極への充電だけで、1日動き続けられるか。
継続的な自発呼吸が出来るか。
人工心臓に異常はないか。
そして、人に危害を与えないか。
全ての確認項目に合格してから、彼とニーナの新しい生活が始まった。
ふたりの新居は、実験棟の一角。
マルクスの電極に接続されたコードを抜くところから、ニーナの朝は始まる。
「おはよう、マルクス」
「お・は・よ・う、ニ・ー・ナ」
言葉遣いがまだつたないマルクスに、ニーナは様々なことをひとつずつ教えていく。
「こんにちは」
「こ・ん・に・ち・は」
まずは挨拶。
そして人間の生活について。
「こんばんは」
「こ・ん・ば・ん・は」
空。太陽。雲。月。星。
自分たちを取り囲む自然について。
「おやすみ」
「お・や・す・み」
頭部の電極に充電しながら、眠りにつくマルクス。
彼の寝顔を見つめながら、ニーナは優しく微笑む。
焦ってはいけない。
人造人間としてのマルクスは、まだ生まれたての赤子のようなもの。
慎重に、時間をかけて、彼の自我を取り戻す。
永遠の命を持つ、人造人間。
その魂も不変であると、証明するのだ。
自分の愛と、慈しみの心を、精一杯彼に注いで。
最初のコメントを投稿しよう!