屍と花嫁

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「おはよう、マルクス」 「おはよう、ニーナ」 毎日繰り返し教えた効果が出たのか、マルクスはスムーズに話せるようになってきた。 「今日は少しだけ、外に出てみましょうか」 「……うん」 ニーナは彼の手を引いて、部屋の外に出る。 外といっても、研究所の敷地内に限られてはいるが、初めて外に出たマルクスの目は、きらきらと輝いている。 「青い空、白い雲」 「そうね。とてもいい天気ね」 「太陽の光、まぶしい」 「それなら、あの木陰のベンチに座りましょう」 マルクスの真横に腰掛けて、ニーナは彼に語りかける。 「ここは、マルクスと私のお気に入りの場所なの」 「マルクス、お気に入り?」 「ええ。昼休みにここで一緒にご飯を食べたり、おしゃべりしたり。時には将来のことを話し合ったりもしたわ」 「しょうらい、って何?」 「たどり着きたい、未来の夢のこと。……私たち、結婚の約束をしていたから、式をどこで挙げようか、新居はどこにしようか、なんて、色々相談しあっていたの」 「……けっこん?」 「神様の前で、ずっと添い遂げることを誓ったふたりが、一緒に暮らすことよ」 マルクスは、ピンときていない様子だった。 「……ふーん」 わずかに落胆したニーナは、ぎこちなく微笑む。 大丈夫、きっと大丈夫。 だってマルクスは言ってくれた。 もし人造人間(フランケンシュタイン)になっても、君のことは忘れない、って。 ふたりの思い出を、少しずつ教えていけば、きっといつか、私のことを思い出してくれるはず。 心の中で、そう自分に言い聞かせながら。
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