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屍と花嫁
永遠の命。
それはふたりの、そして人類の夢。
そして、まだ誰も足を踏み入れたことのない、未知の領域。
「マルクス。明日は例の実験よね」
「ああ。今から胸がドキドキしているよ」
彼は感慨深げな表情で言葉を紡ぐ。
「永遠の命を持つ、人造人間。この実験が成功すれば、科学は死さえ凌駕すると、証明できる」
「……そうね」
彼女はひとりごとのように、ぽつりと問う。
「ねえ、もし不死の身体を手に入れたとして、魂は不変でいられるのかしら?」
「どうだろう。それはまだ、誰にもわからない」
彼は彼女の頬に手を添え、そっと唇を重ねる。
「ニーナ」
「なあに?」
「もし俺が人造人間になっても、きっと君のことは忘れない。ふたりで見た美しい夢も、君への愛も、全て」
「ふふっ。珍しく非科学的なことを言うのね。……もしかして、緊張してる?」
「……かも知れないな」
彼は微笑んで、自分に言い聞かせるように言葉を発した。
「明日の実験はきっと成功する。そして来月、俺は君と結婚するんだ」
ある晴れた日の午後。
青空の下で語り合ったふたりはまだ知らない。
……これが、最後の会話になることを。
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