夢見の鏡

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田舎の空気は気持ちがいいけれど、流石に具合があまりよくないと、早く布団へ戻りたくなる。 ふわぁ、とあくびをしながら家の中へと戻り、寝室へ向かう。 「具合悪いなら、お粥でも作ろうか?」 「うーん…要らない」 婆ちゃんが、声をかけてくれたが、早く眠りたかった。 寝室はさっきの事など何もなかったかのように、シンとしていた。 が、何だか空気が澱み、何もないのにさっきの子供の涎の匂いまでしてくる気がして、吐き気がした。 「弓弦。風邪だといけないから、とりあえず熱測って? それから冷たい水も持って来たけど。」 母さんが体温計を持ってくる。 そんな、大層な。と思ったが、38.4℃。 意外にも熱があった。 しんどいはずだ。 そこから、なんとか寝返りを何度も打ちつつ、眠りにつくと、かやのが例の金縁の鏡に何かを呟いている夢を見た。 何を言っているのかはわからない。 ただ、俺はあの三角形の部屋に入り、かやのをぼーっと見つめていた。 しかし、しばらくして、何かを呟いていたかやのが俺に気がつき、立ち上がり、俺に鏡を手渡す。 「今度こそ、村の人たちに狙われないように」 かやのがそう言って、俺に鏡を見るように目の前に鏡を向けさせる。 鏡には俺の顔が映った。 しかし、まるで水をかき混ぜるように鏡が渦を巻き、俺はそこで目を覚ました。 額には汗が滲んでいて、目をさましてもぼんやりとしていた。 短い夢だと思っていたが2時間ほどは経っていて、枕元には、金縁の鏡が置いてあった。 それくらいでは、もう驚かなくなっていた。 手にとって鏡を覗くと、俺が映る。 そして、俺の後ろにさっきの子供。 「!?」 勢いよく振り返ったが、誰もいない。 恐怖のあまり、ただの妄想…… かやのは、夢で「村人に狙われないように」と言っていた。 そういうお(まじな)いをかけてくれたのかもしれない。 そうだといいな。 滲んだ汗が気持ち悪い。 熱があがっているのかも知れない。 頭痛とめまいと闘いながらもう一度熱を測ってみる。 38.8℃ ちょうどその時氷枕を持って来てくれた母さんが部屋に入って来た。 「熱、少しでも下がった?」 「いや、上がってる…」 「病院に行きましょう、交通事故の時に頭を打ってるし」 「ん……でも、事故とは関係ない気がするよ。村の奴らが俺に何かしてきてるとしか思えない」 「そうだとしたらなんて執念深いわね。自分たちが悪かったくせに。でも、とりあえず病院へ行こう。薬も欲しいし」 *** 「!…かやの!」 病院から帰ってきて、寝室の襖を開けるとかやのがいた。 「体の具合はどう?」 「風邪じゃないかなって、薬をもらった」 「風邪じゃないわよ、呪いのせいよ。ごめんね、力がたりなくて。こんな事初めてだから」 「かやののせいじゃない。でも、どうしたらこれが終わる?」 「村人はあなたが死んで魂を私に捧げようとしてる」 「えっ…….」 「勿論、それをどうにかするつもり。聞いたと言っても話しが聞こえて来たのをこっそり聞いてたんだけだから、どんな風な事をするのか、全然知らなくて。とにかく私に弓弦の魂を捧げるってことで、私を今以上に神格化させようとしているわ」
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