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それから,数日経って、
明日には退院。とまで、きたところだった。
就寝時間を過ぎても寝られずに、スマホを見ていた。
しばらくして、少しウトウトとしてスマホを無意識に手放した頃、微かに扉が開いた気がした。
その音で俺は目を薄く開く。
女性がこっそり入って来たのが見えた。
誰だ?この女は…
「誰?」
女性は俺の声に肩をビクッと振るわせる。
「あ、あの!あなたに危険が迫っています!この鏡を持っていてください!鏡の面を上に向けて」
女性は持っていた物をターンテーブルの上に、パタリと置く。
「ちょ!待って!勝手に置いて帰らないで下さ…!」
俺の話を聞くことなくパタパタと走って出て行ってしまった。
追いかけようにも、まだ怪我した足が不自由で、素早く動けない。
危険が迫っていると言われても、もう交通事故にあったことが危険だったと思うけど。
それ以上に危険が?
そんな訳ないし。
ターンテーブルに置かれた物を手に取ると、金色の縁ががついた楕円の手鏡だった。
「なんで……」
思わず声が漏れる。
明日、看護師さんにでも聞いて返さないと。
そう思いつつ、俺は再びテーブルの上に鏡を置くと、寝転んだ。
が、もう一度起き上がり、鏡の面を上に向ける。
なんか……
こう言うの怖がりだから嫌なんだけど。
それでもしばらくしたら、眠気が襲ってきて俺は寝てしまった。
……でも、あの子、可愛い子だったな。
***
朝、目が覚めた。
カーテン越しに分かる、今日は退院日和の良い天気だ。
病院で、朝食を食べ、その後母さんが車で迎えに来てくれる予定だ。
危険なんて何も起こらなかった。
自分で、ある程度荷物を詰めておかないとな。
そう思って、立ちあがろうとして気がついた。
ない。
昨日の手鏡がない。
キョロキョロどこを探しても見当たらない。
いや、……昨晩、寝ぼけていたのかもしれない。
そうだ、多分そうだ。
危険な事とか、手鏡とか、それで、可愛い女の子とか。
現れるハズがない。
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