夢見の鏡

3/15
28人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
それから,数日経って、 明日には退院。とまで、きたところだった。 就寝時間を過ぎても寝られずに、スマホを見ていた。 しばらくして、少しウトウトとしてスマホを無意識に手放した頃、微かに扉が開いた気がした。 その音で俺は目を薄く開く。 女性がこっそり入って来たのが見えた。 誰だ?この女は… 「誰?」 女性は俺の声に肩をビクッと振るわせる。 「あ、あの!あなたに危険が迫っています!この鏡を持っていてください!鏡の面を上に向けて」 女性は持っていた物をターンテーブルの上に、パタリと置く。 「ちょ!待って!勝手に置いて帰らないで下さ…!」 俺の話を聞くことなくパタパタと走って出て行ってしまった。 追いかけようにも、まだ怪我した足が不自由で、素早く動けない。 危険が迫っていると言われても、もう交通事故にあったことが危険だったと思うけど。 それ以上に危険が? そんな訳ないし。 ターンテーブルに置かれた物を手に取ると、金色の縁ががついた楕円の手鏡だった。 「なんで……」 思わず声が漏れる。 明日、看護師さんにでも聞いて返さないと。 そう思いつつ、俺は再びテーブルの上に鏡を置くと、寝転んだ。 が、もう一度起き上がり、鏡の面を上に向ける。 なんか…… こう言うの怖がりだから嫌なんだけど。 それでもしばらくしたら、眠気が襲ってきて俺は寝てしまった。 ……でも、あの子、可愛い子だったな。 *** 朝、目が覚めた。 カーテン越しに分かる、今日は退院日和の良い天気だ。 病院で、朝食を食べ、その後母さんが車で迎えに来てくれる予定だ。 危険なんて何も起こらなかった。 自分で、ある程度荷物を詰めておかないとな。 そう思って、立ちあがろうとして気がついた。 ない。 昨日の手鏡がない。 キョロキョロどこを探しても見当たらない。 いや、……昨晩、寝ぼけていたのかもしれない。 そうだ、多分そうだ。 危険な事とか、手鏡とか、それで、可愛い女の子とか。 現れるハズがない。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!