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そうだ、夢だ、夢だったんだ。
あの女の子ともう会えないのは残念だけど、変なこと言う人は勘弁だし。
夢で良かった。
俺はその後、無事に退院して、爺ちゃん家に戻った。
しばらくは爺ちゃん家から病院に通院して、落ち着いたら自宅へ戻って、近くの病院で治療する予定だ。
まぁ、しばらくは爺ちゃん家にいるし、ゆっくりしよう。
爺ちゃん婆ちゃんは、心配そうに出迎えてくれたけど、俺の元気な姿を見て喜んでくれた。
「ここの部屋がトイレにも近いし、玄関にも近いから
弓弦、この部屋を使うと良いよ」
「ありがとう、婆ちゃん」
その日の夜は、ご馳走を作ってくれて、腹いっぱい食った。
正直言って病院食だけじゃ物足りなかったからな。
まだ痛みで歩き慣れない足を庇いながら、部屋に戻る。
襖を閉めて正方形の小さなテーブルを二度見した。
あの、例の手鏡が
そこに置いてある。
と言うことは、あの女が勝手に家に入ってるってことか!?
俺は急いでみんなに声をかけようと襖をあけたが、後ろから「ちゃんと訳を話すから話を聞いて」と声が聞こえた。
振り返ると、そこには昨日見た女の子がいた。
今回は薄暗くはないから、彼女がよく見える。
はっきりした大きな目に長い濃いまつ毛。
整った華、ふわっと赤い唇。
そして腰まである長い髪。
それに、見ただけでも分かる。
きっとどんな服でも着こなすだろう美しい身体だろうに、着ている物は、白地に赤い花が散りばめてある汚れた着物だった。
「こ、怖がらないで。私、あなたを助けに来たの。
昨日も言ったでしょう?あなたが危険な目に遭うって」
「その前にお前、誰だ!不法侵入だぞ!出てけ」
「私の名前はかやの。話を聞いて欲しいの、それじゃないと、ずっと恐怖は終わらないから」
「恐怖?お前がここにいる方が恐怖だ!とにかく出てけ」
俺は襖を開けた。
「……分かった。出ていきます。でも、昨晩も、命があるのは、この鏡のおかげよ。
今日も置いていくわ。もし、黒い影のような霊、……化け物が出たら、この鏡をその化け物に向けるのよ。じゃあ、私はこれで。さよなら」
襖から、廊下にでることもなく、彼女はフワッとその場から消えた。
「えっ…どこに……」
消えた?
完全に消えている。
俺はゾッとして、急いでみんながいる広間に向かった。
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