夢見の鏡

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「みんな!今、着物着た女が!」 襖を開けて、広間にいるみんなを見ると、俺の顔を凝視して固まった。 そしてじいちゃんが言う。 「……弓弦、そいつ、何か持ってなかったか?」 「鏡!鏡を置いてった」 俺以外のみんなが顔を見合わせる。 「鏡?なんだそりゃ…」 「危険が起こるから、えっと化け物?が出たら鏡をそれに向けろって」 再び家族らは顔を見合わせた。 爺ちゃん婆ちゃん、両親も立ち上がり、俺の部屋に来て、鏡を見る。 「見たことねぇ鏡だな。化け物が来たらこれを向けろって?」 「うん、女に出てけって言ったらそれ置いて出てった」 爺ちゃんが頭をポリポリ書きながら言いにくそうに、呟く。 「あー…そのなんだ。その着物の女っちゅうのは、鏡の他になんか,持ってなかったか?例えば、その、頭のない鶏だとか。うさぎだとか」 「…うん、そんな物は持ってなかった。どう言うこと?」 「……お前を轢いた車のヤツがな、あの村に住んでる男だったんだ。どうやら、なにかの祝いの日だったらしくてな、その荷物を運ぶ際に、お前とぶつかったらしくて、それが縁起が悪いと文句を言ってたんだよ。ぶつかって来たのは、向こうのくせして、何言ってやがんだって言ってやったが、とにかく何をしてくるのか分からんヤツらだからな、因縁つけてこねぇかと心配してたんだよ。 子供の頃、親に内緒でこっそりあの村の中を通った事があるんだけどな、ヤツら、よく鳥や小動物を食い物にしてるみたいで、血抜きをして、沢山干してあるのを見て、それだけで、驚いたんだけどよ。ニタニタ笑って、首を落としたばっかりの鶏をワシらに投げつけて来やがった。男と首のない鶏がバタバタ暴れるのを見て、怖くなったワシらはすぐに逃げ帰ったが、1人、その男に小石を投げつけたやつがいてな、ある日、その友達が高熱を出して死んだ。その時、村の男が来る、男が来ると、うわ言で言ってたらしい。高熱とあの村が本当に関係しているのかは分からんが、あの村のもんには関わらん方がええから、気になってな。」 確かに聞いていると、変な連中らしいのは理解できる。 「でも、今来た子は助けに来たと言ってた」 「そこが分からん。でも、万が一、その化け物っていうやつが出たら鏡を向けろってんなら、イチかバチかやってみるといい。ワシも幽霊やら化け物やらは見たことないが、あの村に関わると不気味な事が起こるからな。さっき話したことだけじゃない。色々だ。でも弓弦が気にしないのであれば、この鏡を捨てちまってもええぞ?」 俺は考える。 爺ちゃんと同じく俺も霊とか化け物なんか見たことないけど、さっき見た女は目の前で消えた。それが霊とするなら、助けに来たと言って鏡を渡して来たんだ。 何かの役に立つのかもしれない。 俺は鏡を手に取り、覗き込んだ。 何の変哲もない鏡だ。俺が映っているだけだ。
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