夢見の鏡

8/15
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
どれくらい経っただろう。 気持ち悪い息遣いが聞こえなくなった。 やっと逃れられた!と思い目を開ける。 「!?」 化け物が目の前にいた。 まんまるの眼が2つ、目の前にある。 全身黒く、その大人の身長ほどある化け物は、ブヨブヨとしていて、カエルのように座って俺を見つめていた。 豆電球に照らされた体はヌメヌメと光っているように見える。しかし、どことなく人間に見えるのは、髪の毛らしきものが頭に少しあるからだろうか… 「うわぁ!」 俺は飛び上がるように起き、近くに置いてあった鏡を手にした。 鏡を持ったのは、無意識に近かった。 もし、飛びかかって来たらそれで、殴るつもりでいた。そんな感じだった。 案の定、黒いそれは俺に飛びかかってきて、俺は鏡を振り回した。 が、当たらない。 実体がそこにない感じだ。 そんなモノが俺に向かってくる。 「わぁぁっ!」 ブンブン振り回すだけで、精一杯だった俺の耳に、言葉が流れ込んできた。 "鏡を化け物に向けて" そうだ。振り回すんじゃなくて、鏡を向けるんだった! なんとか、少し冷静になり、鏡の面を化け物に向けてみる。 俺から遠ざかる化け物。 しかし、俺は執拗に化け物に鏡に照らし続けた。 「グボッ…グボボボ…」 変な音を鳴らしながら、怪物のあちこちから、泡が垂れてくる。 目玉が落ち、ズルズルと流れ落ちる表面。 ブクブクと泡立ちながら、タールのような液体が畳に残った。 シン…と静まり返る部屋に、俺はドスンと尻もちをつく。 その振動で、母が「なぁに…?」と目を擦りながら起きた。 あんなに、叫んだりバタバタしていたのに、起きる気配のなかった母さんが、俺の尻もちの振動でようやく起きるなんて。 …全く気が付かず眠っていた。 割と眠りの浅い母さんがそんな事ありえない。 「母さん、化け、化け物が出た…」 「えっ…」 電気をつけると母さんが起き上がる。 化け物のいた箇所にはまだ黒い液体が残っていて、 「ひっ…」と母さんは短く声を上げた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!