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どれくらい経っただろう。
気持ち悪い息遣いが聞こえなくなった。
やっと逃れられた!と思い目を開ける。
「!?」
化け物が目の前にいた。
まんまるの眼が2つ、目の前にある。
全身黒く、その大人の身長ほどある化け物は、ブヨブヨとしていて、カエルのように座って俺を見つめていた。
豆電球に照らされた体はヌメヌメと光っているように見える。しかし、どことなく人間に見えるのは、髪の毛らしきものが頭に少しあるからだろうか…
「うわぁ!」
俺は飛び上がるように起き、近くに置いてあった鏡を手にした。
鏡を持ったのは、無意識に近かった。
もし、飛びかかって来たらそれで、殴るつもりでいた。そんな感じだった。
案の定、黒いそれは俺に飛びかかってきて、俺は鏡を振り回した。
が、当たらない。
実体がそこにない感じだ。
そんなモノが俺に向かってくる。
「わぁぁっ!」
ブンブン振り回すだけで、精一杯だった俺の耳に、言葉が流れ込んできた。
"鏡を化け物に向けて"
そうだ。振り回すんじゃなくて、鏡を向けるんだった!
なんとか、少し冷静になり、鏡の面を化け物に向けてみる。
俺から遠ざかる化け物。
しかし、俺は執拗に化け物に鏡に照らし続けた。
「グボッ…グボボボ…」
変な音を鳴らしながら、怪物のあちこちから、泡が垂れてくる。
目玉が落ち、ズルズルと流れ落ちる表面。
ブクブクと泡立ちながら、タールのような液体が畳に残った。
シン…と静まり返る部屋に、俺はドスンと尻もちをつく。
その振動で、母が「なぁに…?」と目を擦りながら起きた。
あんなに、叫んだりバタバタしていたのに、起きる気配のなかった母さんが、俺の尻もちの振動でようやく起きるなんて。
…全く気が付かず眠っていた。
割と眠りの浅い母さんがそんな事ありえない。
「母さん、化け、化け物が出た…」
「えっ…」
電気をつけると母さんが起き上がる。
化け物のいた箇所にはまだ黒い液体が残っていて、
「ひっ…」と母さんは短く声を上げた。
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