センセイの教室

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 しまいには泣き出してしまう始末。当時の学校にはまだ、“男の子なんだから泣いたら駄目”みたいな考え方が根強い頃でね。私もわりと、そういう考え方をしちゃうタイプだったから、余計イライラしてしまったというか。男の子なのに、それも五年生にもなって簡単に泣くなんて、なんてだらしない子なんだろうって。  案の定と言えばいいかしら。私がそれから何度注意しても、彼の居眠りグセは治らなかったの。授業でいつも当たり前のようにうたた寝をしてしまう。私の教え方が悪いのか、あの子の根性が足らないのか。私は途方に暮れてしまったわ。このまま進級させたら、この子は五年生の勉強をまともに出来るようにならないし、集団生活の基礎やルールを守る強い心も身につけることができないだろうって。  そんな、ある日のことだったの。 ――ああ、もう!またA君!  その日も、A君はかくん、かくん、と首が傾いてた。起きてようと頑張っていたみたいだけど、それが明らかにうまくいってない。  流石に私も大きな声を出そうとした、まさにその時のことだったの。 「先生っ!」  突然、一人の男の子が手を挙げたのよ。  名前は、遊大(ゆうた)君。このクラスで一番小柄で、でも一番元気いっぱいな男の子だった。彼ははきはきとした声でこう言ったわ。 「お腹痛いんで、保健室に言ってもいいですか!」 「え、ええ?」 「付き添いで、A君にも一緒に行ってもらいます!いいですよね?」 「ちょっ……」  待て待て待てなんでそうなる?って私は大混乱。だって、遊大君は顔色も悪くないし、全然お腹痛そうに見えないんだもの。しかも、付添いでなんでA君を指名するのかさっぱりわからない。  私が金魚みたいに口をパクパクさせてあっけにとられてると、遊大君はA君の腕を引っ張って無理矢理教室の外に連れ出していってしまった。私はすっかり置いてけぼり状態。  慌てて追いかけると、遊大君がA君と一緒にトイレに入っていくところでね。さすがに、女の私はトイレまで追いかけるわけにはいかないし、仕方なく入り口のドアをコンコンって叩いたの。あ、個室のドアじゃなくて、洗面所のドアの方ね。  すると、中から声がするわけ。 「お腹痛いのでトイレ入りまーす!先生入ってこないでくださーい!」  そう言われてしまえば、どうしようもできない。それに、他の生徒をほったらかしにするわけにはいかないでしょ?  仕方なく、私は教室に戻ったの。もし二人がいつまでも戻ってこないようなら、今度こそお説教をしなければいけないって思いながら。  すると、よ?十分くらいしたところで、遊大君とA君は二人とも戻ってきたの。しかも、A君がさっきまでより明らかに目をぱっちりさせているのよね。  遊大君は笑顔で私に告げたわ。 「お腹痛いの治ったので保健室に行きませんでした!お騒がせしましたぁ!」
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