センセイの教室

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 不思議なことに、残りの授業、A君はちゃんと起きていることができたの。  私は不思議でならなかったわ。一体、遊大君はどんな手品を施したのかってね。 「遊大君。話を聞いてもいい?A君のことなんだけど」  その日以来。遊大君は、時々A君を教室の外に連れ出すようになったの。大体、A君が眠くなってるタイミングでね。そして、五分か十分すると二人で戻ってくるわけ。そうしたらA君の眼が覚めてるの。  さらに、遊大君がA君に何かをアドバイスしたらしく、それ以来彼が眠くなること自体が減っていった。そりゃ、教師としてどんなカラクリなのかと気になるところでしょう?  だから職員室に彼を呼び出したの。私の質問に、遊大君は。 「A君は、夜更かしなんかしてないんです」  そう、教えてくれたの。 「夜更かしなんかしてないのに、授業中、退屈だと思うとすぐ眠くなってしまうんです。本人も凄く困ってました。これは、授業中だけの話じゃない。宿題をやってる時や、おばあちゃんの法事でも居眠りをしてしまうんだって。本人は……いつも大切な行事で、眠気が来るのが怖くて仕方ないって言ってました」 「それは困ったことね。でも、本当に規則正しい生活をしていて、やる気をちゃんと持っているなら、いつもそんなに眠くなるなんてことないはずよ?」 「それは、先生の勘違いです。世の中には、本人がどんなに頑張っても眠気をセーブできない症状の人だっていると思います。僕の姉ちゃんもいつも似たような症状で困ってたから、よくわかるんです」  そうね、ここははっきり教えておいたほうがいいわね。  後になって知ったんだけど、A君の症状って発達障害の典型的な症状の一つだったのよ。発達障害って、実は睡眠障害の外来に行くことで発覚することも多いんですって。夜眠っていても、脳波は正常なのに本人は“眠れた気がしない”ってなっていて、疲れが取れないってこともあるらしいわ。  当時の私は、そんなことは知らなくて。彼が居眠りをするのはやる気がないからだとばかり思ってしまっていたのよ。  そして、きっと遊大君も、そんな障害の知識なんてなかったと思うの。でも、彼はお姉さんとの経験上、本人の努力だけではどうにもならない症状かあるってことを知っていて、それを行動に活かしていたのよね。 「眠気を抑えるためには、気を紛らわせるか、短時間寝てしまうしかない。そもそも、A君は学校だとトイレ以外で一人になれないのがすごく疲れるんだって言ってました。いつも誰かに監視されてるみたいで気が休まらないって。だから、A君をトイレに連れて行って個室で五分間一人になってもらったんです。ちょこっとだけトイレで寝るのもよし、スマホ見るのもよし。そうやって切り替えたら、一気に眠気が覚めて頑張れると思ったから」
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