親の仇でも先輩が好き!

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親の仇でも先輩が好き!

 キッチンには腹の裂けた母の体があり、トイレには首のない父の体がある。いつも通り綺麗に片付いたマンションの一室で、その2つの場所だけが黒々とした血の池になっている。  警察には電話した。警察には「親が何者かに殺された」と淡々と説明し、こちらから電話を切った。  警察はあまりの落ち着き具合に困惑しただろうか。下手したら、俺が犯人だと疑っているだろうか。警察は電話の終盤で、部屋を出たらそこで待機していてくださいと指示した。まだ近くに犯人がいるかも知れない。それなのにも関わらず、警察がその場での待機を命じた。そこに何かしらの意図と疑念を感じずにはいられなかった。  言われた通り、外で待つ。外は、殺人事件が起こるのに相応しくなかった。快晴だった。雲はなかった。何か鳥でも飛んでいれば、それがやけに目立ってしまうような空だった。  ぼーっと空を見ながら、僕は1階の駐車場で待つ。パトカーと救急車があっという間に集まり、出てきた大人たちに向かって僕は会釈をした。 「川村さんですか」  強面で長身の男が話しかけてくる。  俺は頷く。いかにも、俺は川村裕翔だ。このマンションの5階で、家族3人で平穏に暮らしていた。そして、そのうち2人は上で臭い死体になっている。 「うちの人間が中に入ります。部屋番号はお電話でお伝えいただいていた503ですね」  再度頷く。男は顔をこわばらせたまま、後ろの者たちに手だけで合図を送る。途端に、後ろの大人たちが次々に動き出す。 「確認したいんだが」 「はい」 「体から血を流して倒れているのは、君の親御さんだね」 「そうですね」  何も表情を変えずに答える。男は表情を変えない。しかし、目の奥に反射していた光は、微かに揺れた。  間違いない。男は俺を犯人だと、ほぼ確信している。  ここまで冷静にしているんだから、当たり前だろう。だが、俺は素直なだけだった。あの2人が死んでも、俺から涙は出なかったし、嗚咽も漏れなかった。  2人は俺の前で、切り刻まれて倒れていただけだ。  そして、これも素直に、嘘偽りもなく言える。俺は、やってない。
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