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パパ! 優しいパパだ! もう、悲しい事言わない?
「キュン! キュン!(パパ! パパ!)」
嬉しくなってベッドの上で飛び跳ねると、パパは僕を抱えて泣いていた。パパが泣くのはよくある事だが、なぜかパパの涙を初めて見たような気がする。
「ノアにとって、父親の存在はアルマが初めてなんだよ。なのに、アルマはノアとあまり関わりを持たなかった。本来なら、アストやノクトが兄という存在をすり込むのと同じで、父親をすり込まないといけない。そうしてたら、あのくらいの言葉にノアは傷つかなかった」
パパはラシルの言葉を聞いて、更に強く僕を抱きしめてくる。それが僕は嬉しくて、尻尾を揺らすと、パパはなぜか驚いた表情をした。
「シノとアルマがした事は、俺からしてみれば、そんなに酷いものじゃない。でも、ノアにとっては違うんだよ。ノアの世界で生きたいなら、ノアを理解すると同時に、自分を理解させないと駄目だ。アルマ、今回で分かったでしょ。可愛がるだけが、親の仕事じゃない」
「ノア……こんな父親でごめん」
パパ? 悲しいの? パパはいつも優しくて、笑ったり泣いたりするけど、パパのことはよく分からなかった。でも今は分かるよ。パパ、僕に許してほしいの?
「アルマは、家族が分からないんだろうね。シノも同じで、フォキシナはみんなそうだ。これは月の一族である以上、仕方のない事だよ。子供が分からない。どうやって子供に接したらいいか分からない。でも、運良くアストが長男として産まれ、ノクトもアストが育てたようなものだった。ただ、そこで一番早く変わったのはシノだった」
ラシルは優しい声で話すが、なぜかパパは怯えていて、その怯えがラシルに対してではなく、僕に対してのものだという事は、なんとなく感じとれた。
「アストがノクトを奪ったからだよ。母親としての本能が、月の一族の本能を食らった。ただ、ノクトはあっという間に親の手を離れて、アルマは何もできないままノアと出会ってしまった。ノアを可愛がりたいのに、どうすればいいか分からなくて、結局遊びや食べ物でノアの気をひいたけど、ノアだけは可愛がるだけじゃ駄目なんだよ。シノに庇われてばかりいては、その恐怖からはいつまで経っても解放されないよ」
パパはビクリと震えると、僕をゆっくりベッドへ下ろし、僕と目を合わせてくる。パパはあまり僕を見ない。可愛いと言いながらも、どこを見ているのか分からなくて、誰と話しているのかも分からなかった。
パパはよく分からない。でも優しいのは知ってる。僕を好きなのかは分からない。遊んでる時でも、みんなと喋ってる時でも、いつの間にかいなくなっちゃうから。
「ノア、ごめんな。父親らしい事をしてやれなかった。俺は父親が……親がどんなものか分からないんだ」
父親? 僕も分からない。パパが初めてだから、分からない。僕には、最初から母さんしかいないの。
「だからな、これからは頑張ろうと思う。ノアにとっての"父さん"になれるように。遅くなってごめんな。ノア……母さんの対として、父さんと呼んでくれないか? ノアが出て行ってからは、もう何も怖くない。ノアに教える事は、間違いが多かったとしても、それがノアの父さんだ」
父さん? 母さんじゃなくて父さん……初めて。母さん、兄さん……父さん……呼び方、一緒だ!
「父さん! 覚えた! 僕の父さん、母さんと兄さんと同じになった!」
「うん。ありがとう、ノア」
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