(魔神となった神)

1/4
前へ
/161ページ
次へ

(魔神となった神)

~sideベト~  霊界には死者が流れてくる。もう、どれほど経ったか分からない程、私は霊界で死者とともに過ごし、死者が天へ昇るところを見送ってきた。  霊界は、私が死んだ事でできた場所だった。神が死ぬ事などないと思っていたが、肉体がなくなった神が天から堕ちた事で、死者の世界が誕生した。霊界の魔神ベト、それが今の私の名であり、メルツという神が堕ちた姿だ。  私はフェーブルアールに騙されたが、私の目的はあくまで世界樹のツガイ捜しだった。死者の中から捜し、そして見つけた。小さな魂が、異界から流れてきて、それと同時に私のツガイでもあると感じた。そして、その小さな魂はヤヌアールが連れてきたのだと分かり、すぐにでも転生させた。  どうか、世界樹のツガイになってほしい。  そんな願いを込めて送り出した子が、今魔界に来ていて、ツガイである精霊王とともに、私の目の前にいる。 『───これが、真実です。私は、ノアを転生させました。誰よりも早く……私の魔神としての役目は、死者の魂から記憶を抜き取り、転生させる事です。死者の記憶がある事で、私はある程度であれば、世界を把握できます。勿論、ノアが天界を壊した事も……』  神々は魔神にし、天使はエルフに戻して転生させた。それでも、一人だけどうしていいか分からない者がいる。 「まずは礼を言うよ。ありがとう、ベト。おかげで、俺はノアと出会えた」 『いえ……ただ、ノアの兄であるアストは……ノアと同じく、記憶を消す事ができませんでした。異界から来たからでしょう』 「それは大丈夫だよ。アストは俺の配下で、ノアの兄だからね。異界の知識で、この世界を壊すような事はしない」  私には分からない知識を、アストとノアとヤヌアールは持っている。一番怖いのは、その知識でこの世界を壊す事だが、それも問題はなさそうだ。やはり、自分一人で最悪の場合を考えるより、こうして精霊王に……世界樹に大丈夫だと言われた方が安心できる。 『今、ここでアストとノアを見れた事で、私も安心できました。それにしても、どのようにして私をこの精霊に移したのですか?』  私は確かに霊界にいた。しかし、今はこのリャンという精霊の体を借りているような状態だ。とは言え、霊界から出たわけではなく、不思議な感覚に首を傾げるしかない。 「ノアの望みに、俺の望みを押し付けたんだよ。俺はノアの望みを叶える為に、リャンをベトの依代にしたんだよ。俺の望みが叶って、俺が喜べば、それがノアの望みになるからね。これからは、リャンが承諾した時のみ、ベトはリャンの体を借りる事ができると思うよ」 『そうでしたか。リャン、ありがとうございます』  リャンはノアの為なら、なんでもするようで、ノアが喜ぶならいつでも使ってくれていい、といった気持ちが伝わってくる。
/161ページ

最初のコメントを投稿しよう!

168人が本棚に入れています
本棚に追加