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第一章(北の地から異世界へ)
人間を見たら、すぐに逃げなさい。という母さんの口癖と、目の前に広がる母さんの血。そして耳が痛くなる大きな音と、お腹の痛みを最後に、僕はまた産まれた。
変な匂い。僕の知ってる匂いじゃない。お腹すいた。
僕は目が開かず、鼻でご飯を探すと、急に体が浮いて何かに体を包まれた。そして、漸くご飯にありつくと、人間のような言葉が聞こえてきて、必死で母さんを探した。
「キュン、キュン(母さん、母さん)」
母さんを呼んでも、そこに母さんはいなくて、人間の声だけが聞こえてくる。
「キュン、キュン(母さん、どこ)」
僕はご飯を食べずに母さんを捜すが、やはり母さんは僕を迎えには来てくれなくて、与えられるご飯を食べては眠り、食べては眠りを繰り返し、目が開くようになると、人間には僕に似た耳と尻尾がついていて、母さんのような空の目と雪の毛を見て、すぐに僕の母さんだと分かった。
人間が、僕の母さんを食べちゃったんだ。でも、母さんはまた、僕を産んでくれた。
「キュン、キュン!(母さん、母さん!)」
「───ノア」
母さんは、人間の言葉を話す。それでも、ノアという言葉はいつも言うため、僕も自然と覚えた。それから月日が経ち、ある程度人間の言葉を覚えてきた頃、僕と母さんの住処に、新しい人間がやってきた。その人間も、僕達の同族を食べたようで、夜空の毛と草の目をもつ人だった。
「シノ、ノア! 会いたかった」
「アルマ、ノアが怯えるから静かに」
僕と母さんの住処に入ってきた人から、母さんを守ろうとして毛を逆立てるが、近づいてくる人が大きすぎて、怖くなった僕は母さんの後ろに隠れてしまった。
母さん、知ってるの? 僕、その人知らない。怖くない?
「ノア、パパだぞ~! 怖くないから出ておいで」
パパ……母さんがよく言ってた。パパとお兄ちゃんって人がいるって。この人がパパ?
母さんの顔を見上げると、母さんは笑って頷き、パパの手を僕に近づけてくる。そこで僕は恐る恐る鼻を近づけ、匂いを確認すると、変な匂いに驚いて顔を横に振り、もう一度確認するが、やはり変な匂いに鼻が痒くなって、前足で何度も鼻を擦る。
「え……臭い? 臭いの? ノア」
「ふふっ……ノアは可愛いな。臭かったんだな。よしよし」
これが臭い。変な匂いは臭いんだ。
僕は布団に潜って、母さんの匂いに包まれると、急激な眠気な襲われて、すぐに眠ってしまった。それから数日後、次はお兄ちゃんが僕と母さんの住処にやって来た。お兄ちゃんは、パパに似た毛と母さんに似た目をもち、体はパパより少し小さいくらいの人で、手は臭くなかったが、顔はずっと怒っていた。しかし、お兄ちゃんは毎日のようにやって来て、母さんと少し話すと帰っていく。
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