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「あ、部長、何処に行ってたのよー、さっきカンザキ社長が挨拶にいらしてたのよ!」 フロアに入るなり東堂が慌ててやって来た。 「え、そうなの?!」 透はセンチになっていた気持ちを引っ込めた。 「うん、王子の仕事場所、見に来たって言って。先に下に降りてます、とお伝え下さいって」 「わかった!やべー!」 透は、慌てて帰り支度をし「お先!」とみんなに挨拶をしてエレベーターに向かった。 下っ端の分際でカンザキ社長をお待たせするなんて! 俺は、何をやってんだーとエレベーターの下向きボタンをカチカチ押す。 「遅ぇー!」 透はそう叫んで階段に向かった。 ダッシュで階段を駆け下り、汗だくになってエントランスに向かった。 エントランスでは、神崎とその父親であるカンザキ社長、そしてうちの社長と常務が和やかに話をしていた。 「すすすすいません!お待たせ致しました!」 透が必死に頭を下げると「いやいや、大丈夫ですよ。私が勝手に早く来たんです。息子の働いているところを見たくてね」とカンザキ社長は、おおらかに笑ってくれた。 「じゃ、行きましょうか」 常務が言って、五人でビルの外に出た。カンザキ社長と神崎は、社長の専用車に乗り込み、残り三人でタクシーに乗り込んだ。 神崎は、さっきから一度も目を合わせてくれなかった。 今、前を走っているカンザキ製パン社長専用のデカイ車と、自分が乗っているタクシーの助手席が本当の自分達の距離だ。 神崎は、本当は別の世界の人なのだ。正に王子なんだろう。 はあ……と誰にも聞こえないようにため息をついて、ハンカチで汗を拭った。 後部座席では社長と常務が七海ママの話をしている。 どっちかが七海ママとデキているんだろう。 そんなことは、どうでも良かったけれど、そんなことでも聞いていないとやり切れない気分だった。
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