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その日はマスコミ関係者との約束で、新商品に関する取材があり、東堂と出かけることになっていた。 資料を準備しながら、透は山口に何やら教わっている神崎を見る。 指導者は、山口が適任だろうと、透が指示を出した。 指示したけれど、妙に距離が近いのも気になるし、二人が楽しそうなのも気になって仕方がない。 「ちょっと、部長、行きますよー」 東堂が声を掛けてきた。 「あ、うん行こうか」 「気になるの?神崎くん」 ニヤニヤと笑いながら、東堂が肘でつついてくる。 「な、何言ってんだ、バカかお前!あれは冗談…」 「言い訳すればする程あやしー」 ケラケラ笑いながら「ほらほら行くよ」と東堂に背中を押されてフロアを出た。 「ねえねえ、知ってる?神崎くんってあのカンザキ製パンの御曹司なんだって」 廊下に出ると東堂が声を潜めて言ってきた。 「は?嘘だろ?」 カンザキ製パンといえば、国内有数の大手じゃないか。 「ホントらしいよ。いずれ継ぐらしいんだけど、勉強のためにうちにきてるんだって、人事の屋島くんが言ってたもん。別に秘密事項でもないらしいけど、大っぴらにはしないほうが本人にはいいからって言ってたよ」 「へ、へえ……」 透は、これまで何か失礼なことはしなかったろうか、と思い巡らせる。全く、上も部長の俺くらいには言っとけっつうの! 神崎が……御曹司…… もしそんなことが大っぴらになったら、女子社員達は、益々ヒートアップして神崎の彼女の座を奪いに行くのではないか? ……なるほど!だから俺が、彼氏でいるのが1番の『平和的解決』になるのか! 「なるほどね」 透は、妙に納得して独り言を言った。 「部長ー!エレベーター来ましたよー」 東堂に呼ばれ慌ててエレベーターに乗り込む。 こりゃマジで演技しないとならないかもな、と透は思った。
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