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チラホラと人が残っているフロアで、神崎と空いている応接用のテーブルに着いた。
「どうぞ」
神崎が、ガサガサと袋からたまごサンドと紙パックのコーヒーを出して渡してくれた。
「ありがとう」
素直に受け取って、ペリペリと封を開け、サンドイッチにパクつく。たまごサンドは元々好きだが、食べるのは久しぶりだ。
「うん、美味しい。最近のコンビニパン美味いですよね」
不意にさっき聞いた話を思い出した。
「あのさ、神崎くんのお父様って」
「はい?あ、聞いちゃいました?カンザキ製パンのこと」
神崎は、チュウっとコーヒーをストローで啜る。
確かに御曹司なんだろう。何をしても上品に見える。
「うん、チラッとね。東堂が。口止めしといたほうがいいよな」
「別にいいですよ。だって透さんが彼氏だって分かればみんな言いよって来ないでしょう?」
「あー、だから、それは………」
「ダメなんですか……?」
また例の仔犬のような瞳が透の胸を射抜いてくる。
「わ、わかったよ……。けど会社では頼むから部長って呼んでくれ」
「分かりました!部長!」
透は、とうとう覚悟を決めた。(あとは野となれ山となれ)という言葉が頭を掠め、透は残りのサンドイッチをパクリと口に放り込んだ。
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