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仕事時間が終わりに近づいた頃。スマートフォンに、メッセージが届いた。
『まだかかりそうですか?部長』
神崎からだった。
『いや、もう終わる』
と返信する。
外で待ち合わせしよう、と約束していたのを思い出した。
会社を出て、駅の反対方面にたまに利用している居酒屋がある。あそこならそんなに会社の連中にも会わないし、そこでどうだろう。
神崎に店の場所を添付して送り、そこで待ち合わせをした。
『やった!先に行ってますね!』
と可愛くバンザイしている犬のスタンプと一緒に返信がきた。
(可愛いヤツめ)
心で思いながら、また口の中を噛んで笑いを堪える。
こんなことくらいで ニヤついてしまう自分が情けなかった。
「さてと」
神崎がフロアを出るのを「お疲れ様」と見送った後で、透もパソコンを閉じると、東堂が慌ててやって来た。
「ね、これって、明日までじゃなかった?」
「え?」
少し前に、提出するように言われていたクレーム商品についての謝罪文。
三ヶ月に1度の発売の雑誌だっので、まだまだ期限があると思い、先延ばしにしていた。
「お、ほんとだ!ヤバい!」
「まったく!しっかりしてよ、部長。私は帰りまーす」
「ああ、お疲れ様」
しまった、と思いながら、もう一度パソコンを立ち上げ、謝罪文をテンプレートから探し出し、作ってゆく。
片手でそれをしながら、スマートフォンを開け、神崎に『悪い、今日は急ぎの仕事で無理になった』と文字を打った。
仕事を片付けながら、なかなか既読にならないLINEをチラチラと見る。
「なんで、見ないんだよ、こんな時に限って」
イライラとして、何度も文字を打ち間違えてしまった。
1時間ほどして仕事を終え、メールでそれを送り、パソコンを閉じた。
LINEは、まだ既読にならない。
透は、仕方なく慌てて帰り支度をして、待ち合わせの場所に向かった。
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