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下着とシャツ姿のままで部屋に戻ると、着ていたスーツがきちんと整えらて掛けられていた。
「こちらにどうぞ」
美しい大理石のキッチン。一枚板のオシャレなテーブル。
コーヒーと焼きたてのホットサンドが用意してあった。
「二日酔いだし、味噌汁の方が良かったかもしれないですね」
ごめんなさい、うち実家がパン屋なもので、と神崎は手を合わせている。
「いや、大丈夫だよ」
実家がパン屋などと普通なら嫌味に聞こえそうだが、神崎が言うと不思議とそう聞こえない。
ありがとう、と言ってコーヒーを1口飲んだ。
「うま…」
挽きたての豆を使っているのだろうか、コクと香りが自分の家のコーヒーと全く違っている。
「お口にあいましたか?」
「うん、美味い」
「良かったです」
神崎は、もう食べ終えているようで、透が、食べるのをニコニコしながら見ている。
なんだこの幸福感。
イケメンに愛でられる経験など、これまで1度もない。
「ほんとは、昨夜襲っちゃおうかなー思ったんですけどね」
神崎になんでもないように言われ、透は、コーヒーを噴き出すところだった。
「ななななにを言って……」
「可愛かったんですよう、しがみついてきて。虐めて欲しいって」
「な、なにを、適当なことを」
思い当たる節があり過ぎて、透はゾッとした。酔って本心がダダ漏れになってしまったのかもしれない。
「けど、シラフの時のほうがいいなあって思って」
神崎は、そう言ってネクタイを締めている。
あと20分ほどで出ないと間に合わない。
透は、慌てて朝食を平らげ、スーツを着た。
神崎は、愉しげに食器を洗っている。
「悪かったな、色々。ありがとう」
世話になったことに礼を言うと「いえ、こちらこそお世話させてくれてありがとうございました」と神崎は笑った。
やはり、御曹司なんて人間は、可笑しな人が多いのかもしれない。
透は自分をそう納得させて、昨日と同じネクタイを締めた。
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