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会社には少し時間をずらして行こうと言って、透は先に部屋を出た。
外に出て改めて見ると、巨大な高層マンションである事が分かる。
しかも最上階だ。
透は目を細めてそれを見あげ、二日酔いも手伝ってクラクラしてしまった。
自分がこの地面にいる人間なら、神崎は、あの最上階にいる人間だ。
身分格差……など今どき無いのかもしれないが、普通なら出会うことのない人種だろう。
まったく自分なんかのどこがいいのか、よく分からない。金持ちの気まぐれに違いない、と思い、透は真っ直ぐに近くの駅に向かって歩いた。
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「あら?昨日と同じネクタイじゃないですかあ?」
田中真亜子がするどく指摘してきて、透は、ピクリと身体を硬くする。
「そりゃ畑中部長、独身なんだから、そのくらい『あるある』ですよねえ」
山口に助け舟を出され「まあな」と苦笑する。
「へえー、そうなんですね!『あるある』なんだあ」
田中はしつこく絡みながらも、コーヒーを淹れ、持ってきてくれた。
「あれ?!」
田中は、コーヒーを置いてクンクンと鼻を鳴らしている。
「な、なんだよ」
透は、思わず身体を引いた。
「なんかこの香り…」
その時「おはようございまーす」と神崎が出社してきた。
みんなの視線が神崎に集まる。
「あー、神崎くんおはよう」
田中も顔中に嬉しいと描いて神崎のほうに近づいていく。
山口も、東堂までもが神崎に擦り寄っていった。
イケメンで金持ち。その上性格も良い。仕事も出来る。
(あれで、オッサン好きの変態じゃなかったら、バランスが取れんよな)
透は、口の中で笑いを噛み殺す。
ふふん、と1人で思っていると「おはようございます、畑中部長!」と神崎がニコニコ近づいてきた。
「ああ、おはよう」
透は真顔を作る。そうでもしないと、神崎の笑顔に釣られてヘラヘラしてしまいそうだった。
まだ始業前だったが、二人で仕事の話をしていると、田中が「あー、わかった!」と大きな声を出した。
みんなが田中に注目する。
「同じ香りだ!部長と神崎くん」
「え……」
透は、驚いて固まってしまった。
あまりよく考えずにシャワーを借り、その場にあった高そうなシャンプーやトリートメント、ボディソープまで借りてしまった。
確かに良い香りだった。
「そうなんですかあ?畑中部長も同じのを使ってるなんて嬉しいです!」
神崎が上手く誤魔化してくれたが、透は背中に嫌な汗をかいてしまった。
次からは気をつけよう。そう思ってから、次があることを期待している自分に(アホか)と心の中で呟いた。
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