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その日はノー残業デーで、みんながソワソワしだしたので、透も慌てて帰り支度をした。
みんなそれぞれ気の合う者同士で、飲みに行ったり食事に行くようだ。
透は、それを微笑ましい気持ちで眺める。
なんだかんだ色々あるが、良い会社だな、と思う。
パソコンを閉じるとスマートフォンが震えた。
『久々に同期で集まらないか』
同期の井坂からの誘いだ。メッセージを読んでいると東堂がやって来た。
「どーする?行く?同期会」
「あー、東堂は?行くのか?」
同期会と言っても他は辞めたり移動になっていて、この三人で集まるだけだ。
「行こっかな。ノー残業デーは、飲み会って家族には言ってるから、うちは旦那がご飯作ってくれるし」
「そうか」
チラッと神崎を見ると、若い女の子達に囲まれて誘われているようだ。
困ったような顔をしているが、今日はおそらく彼女達に強引に連れて行かれるんだろう。
「じゃ、久々やるか、同期会」
「お、行く?」
東堂が嬉しそうに言った。
透は、神崎を見ないようにして立ち上がる。
見るとイライラしてしまう自分が情けなかった。
(神崎は、俺の……)
自分は、こんなに嫉妬深い人間だったろうか?
もう随分長い間こんな気持ちになる事はなかった。
婚約破棄があって以来、心を動かさないようにフタを閉じていたのに。
神崎に強引にこじ開けられてしまった。それ故に今はとても敏感になっている。
「神崎くんさすが人気だねえ」
東堂は、笑っている。
「そうだな、金持ちイケメン性格良しの、悪いとこ無しだもんな」
「そうだね、でもさあ」
「あ?」
東堂が何か言いたそうに言葉を飲み込む。
「ま、後でね。行こっ」
東堂に腕を引かれて立ち上がる。一瞬、神崎と目が合って、会釈すると神崎は少し寂しそうに笑って頭を下げた。
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