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週末。
あれ以来、なんとなく神崎の態度がよそよそしく、透も声を掛け辛くなってしまった。
とりあえず土曜日は、予約をしていたので、朝から美容院に向かう。
個人で美容院を経営している今井翔太郎(イマイショウタロウ)は、歳下のゲイ友達でもあり、透にとってはプライベートなことも相談できる相手だった。
「久しぶりねー、透さん」
「おー、元気だったか?翔太郎」
ここに来るのは三ヶ月ぶりだ。ここの所バタバタしていて、こんな余裕も無かった。
「元気、元気!まあ腰は相変わらず悪いんだけどねえ」
「35過ぎたら仕方ないだろ」
「やだあ、オッサン扱いしないでえ」
などと下らない話をしながら座り心地のよい椅子に腰かける。
いつも奇抜な髪型の翔太郎だが、今回は朱に染めて短髪だ。
「翔太郎、バンドマンとでも付き合い始めたのか?ロックな髪型だなあ」
この店は、翔太郎がひとりでやっていて、完全予約制なので、気兼ねなく会話が出来る。
「あらやだ、さすが透さん!そうなのよう、今度の彼氏、ドラムしててね、カッコイイのよう」
ウキウキと話す翔太郎を羨ましく思う。透も神崎のことを自慢したかった。
「透さんは? どうなの?」
髪を軽く切って整えて貰いながら聞かれ「うん、それがさ」と、透は事の経緯を話した。
「そうなのね……その子も大変そうねえ」
「うん、俺、どうしたらいいんだろ」
歳下相手に情けないことを言ってしまった。
翔太郎は懐の深い男なので、いつも透は、つい弱音をはいてしまう。
「そういう子には、ちょっとカンフル剤が必要かもね」
「カンフル剤?」
意外な言葉が出てきて透は少し怯む。
「平和主義は素晴らしいけど、自分が我慢してればいいっていうのは、おかしいでしょ?いつかは、ちゃんと話さないと。他人なら離れればいいけど、ずっと付き合う親なんだから」
「そうなんだけどさあ。それこそ他人の俺が口挟むのおかしくないか?」
カットが終わり、翔太郎は隣りで白髪染めの準備を始める。
「けど彼は助けを求めてるかもしれないじゃない!透さんまで事なかれ主義になってどうするのよ」
そう言われて、透はハッとした。確かにそうだ。このまま放っておくことだって出来る。出来るけど自分は神崎を救いたいのだ。
「そうだよな……」
「そうそう!オッサンのお節介だけど、ウザくてごめんって言っちゃえば?嫌なら向こうから離れてくんじゃない?」
白髪染をされながら、学生時代ような会話をする。まったく成長のない自分に苦笑してしまった。
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