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「この間、私、久しぶりに同期の仲間三人でお酒を飲んだんですよ。本当に久しぶりで、とても楽しくて」
「はあ……」
母親は、この人何を言っているんだろう、という顔をしている。
けれど透は、もう引き返せないので、続けて話をした。
「それで、その二人がですね、下らない話ばかりしていて……。私、気がついたら泣いてたんです。楽しくて」
「はあ、そうなんですか……」
「そうだったんですね、良かったですね、楽しくて」
神崎が嬉しそうに言った。
「はい。それで思ったんですが。私、普段は、ストレスとかあまり感じないタイプでして。溜まっているとは思ってなかったんです。でもそうやって、楽しく飲んでいて涙が出るっていうのは、やはりストレスが溜まっていたんだなあ、と思いまして」
透は一気に話し、1口紅茶を飲んだ。ふう、と息をつく。
「それでですね、お母様。お母様は、ストレスとか無いですか?それを何で発散していますか?」
「は……?あの仰ってる意味が少し分からないのですけど」
母親はキョトンとしている。
「息子さんで……解消していませんか? 彼は、カナメくんは、貴方の犠牲になってはいませんか?」
透は、目力で負けないように真っ直ぐと母親を見据えて言った。
失礼な事は分かっていたが、もう言葉は取り戻せない。
案の定、母親はムッとした顔をした。
「貴方、なんて事を……」
神崎は、透の隣でギュッと手を握り締めている。
きっとこんな事を母親に言うなんてと、悲しい気持ちになっているのだろう。
神崎の平和が破られてしまうかもしれないのだ。
「ちょっとカナメ、どういうこと?どうして私達のプライバシーをこの人が……」
「母さん……ごめん。俺、この人が好きなんだ。この人は、俺の恋人なんだよ」
「はあ?何言ってるの!カナメ!お母さんをバカにしてるの?!」
母親は、怒ってとうとう立ち上がってしまった。
「もう帰ります!」
「母さん!待って!」
神崎が止めるのも聞かずに、母親はバタン!と扉を閉めて帰って行ってしまった。
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