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透が、イワサカ製菓に入社して二年程たった25歳の時。
営業だった透は初めて、自分ひとりでやってみるか? と得意先を任され、仕事が面白くて仕方のない時だった。
その得意先でイベントがあり、手伝いに行った時に、澤井佳奈(サワイカナ)と出逢った。
1つ下の澤井は小柄で可愛らしく、顔は少々地味だったが、何よりよく気がつく子だった。
結婚するならこういう子がいいだろうと思い、親孝行できるかも、と透は考える。
その日の帰りに「良かったら食事でも」と誘い、一緒に食事行くことにした。
澤井は、育ちの良さが分かる上品さで、食事のマナーも店員への気遣いも素晴らしい女性だった。
透がそれを褒めると「いえ、仕事で上司のお供をすることが多いんで自然にそうなっただけです」と照れくさそうに笑った。
謙虚な態度も良い。何か欠点はないのかと透は躍起になったけれど、特に悪い点は無い。
一年ほど、付き合ってプロポーズをした。
どうせ誰かと結婚するなら早いほうがよい。
結婚式の打ち合わせの為に二人でホテルを訪れた時だった。
ふたりで並んで座っていると、血相を変えた男が部屋に走り込んできた。
「佳奈!」
「和彦さん?!」
透は、二人のただならぬ様子に呆気に取られ、何も言えなくなる。
その後、泣いて謝られ、その話は破談になった。
女というのは、虫も殺さないような顔で平気で相手を裏切るのだ。泣きたいのがこちらでも、先に泣かれるので許すしかなくなってしまう。
透は、女が怖くなり、それ以来、真面目に付き合うのをやめてしまった。
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