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 深夜1時を超えていた。  焦茶色のバスケットボールは、しかし依然としてコートの中を跳ね回っていて、バムッバムッと鳴り響く音が辺り一面を喧しくさせている。  六月半ばの空気を、この日はそれ程気持ち悪いとは感じなかった。それはおそらく、いつもなら厄介に感じる潮風を、自分の肌がうまく感知できないからだとユウタは考える。この日は珍しく、ここに来る前にさっとシャワーを浴びたのだった。その時に使用した石鹸は真新しいもので、まだ自分の身体に馴染んではいない。そのため今は湿気よりも、その新しく使い始めた石鹸の感触のほうが気になって仕方がないのだ。ちなみにその石鹸は、最近親戚の叔母からもらったものである。  ここは海が近い。潮の香りを感じない日は当然なかった。そのことに不満を覚えたことはないが、しかし梅雨の時期に入ると話は別だった。道を行く誰もが、街全体に漂う潮気にうんざりした表情を見せるのだ。それはもちろんユウタも例外ではなかった。  ボールの跳ねる音が聞こえた。と、次の瞬間にバサッと耳心地の良い音がコート内に響き渡った。どうやら誰かがボールを地面に放り投げ、それがバウンドしてあれよあれよとゴールネットに吸い寄せられたらしい。  その場がどっと沸いて、三、四人の少年たちがユウタの目の前で陽気にハイタッチを交わしている。  フェンスに背に預けて地べたに座り込んでいるユウタは、名前も知らない少年たちの一つ一つの動作を、この日も上目遣いにじっと観察している。
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