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6
初めて飲んだビールの味に吐き気を催した。こんな不味い飲み物のどこに多くの人々は魅力を感じているのか。中学一年生のユウタにはそれが全く理解できなかった。
自分たちのすぐ目の前では、暗い夜の海がざあざあと音を立てながら満ち引きを繰り返している。その海岸沿いに設置されたテトラポットの上で、コウキとその彼女がケラケラと笑いながら酔った目でユウタを見下ろしている。
二人ともなぜか上半身裸の状態で、ゴクゴクと美味しそうにビールを飲み、「うまい!」と大声で喚きながら、既に赤く染まった顔をさらに真っ赤にさせていた。
二人は周囲を気にする様子も見せず、半裸のまま狂ったように酒を飲み続けている。ユウタは先程口にしたビールをげえげえ吐きながら、自分の瞳の奥深いところに、強烈な眠気が灯り始めてゆくのを感じ取る。
あの二人は繋がるのだろうか。
ユウタは二人に瞳を向ける。
あの二人は繋がるのだろうか。あの二人は重なるのだろうか。あの二人は交じり合うのだろうか。海水に濡れたテトラポットの影の中で。あるいは潮気の拡がる夜の砂浜の上で。
自分たちはここにいる。そう叫びながら、二人は涙を流しながらお互いを激しく求め合うのだろうか。
そんなことを思いながら、ユウタは自分の母のことを考えた。
母には数えきれない程の「子ども」がいる。その中には80歳を超えた高齢のおじいちゃんやおばあちゃんもいるし、まだ小学校に上がっていない幼い幼稚園児もいる。
精神を病んで失語症になった人もいるし、大きな事故で車椅子生活になった人もいた。そんな彼らに援助の手を差し伸べ、彼らと交流を持ち、彼らから深い感謝の言葉を受ける。それがいつしか母のなによりの生きがいになっていた。
母がいつからそうなったのか、その明確な時期は今なお判然としないままである。おそらくそこには父が深く関係していると思われるが、そんな夫婦の事情をユウタは知る由もなかった。
結局、母は弱かったのだ。そしてそんな行動の結果として、今ではもう母はユウタたちの母親ではなくなってしまったのである。家の中に溢れ返っているガラクタこそが、母にとっての大切な子どもたちであり、それらこそが母の唯一無二の宝物なのだ。
気付くと、いつのまにか二人はいなくなっていた。自分は知らぬまに寝てしまったのだろうか。だとしたら、一体どれ程の間眠っていたのだろう。ユウタは考えるが、わからない。
暗い海が目の前に拡がっている。その海から流れてくる温かい潮風に、ユウタの身体はすっぽりと包み込まれてしまった。
湿気を含んだ海の風はやはりベタベタしてどうしても不快に感じてしまうが、こればかりはもう仕方がないことだ。なぜならここは海の街だからである。
ユウタ、と自分の名前を呼ぶ声が突然背後から聞こえてきて、ユウタは慌てて振り向いた。しかしそこに存在するのは、果てのない暗闇だけで、誰かが近くにいる気配など微塵も感じられなかった。
それでもユウタは確信する。先程耳にした声は確かに自分の名前を呼んでいる声だった。そしてその声の持ち主は目の前に拡がる海でも、自分たちを見捨てた母でもなくて——
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