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料理には魔法がかかっている、と私は思う。
昔懐かしい料理は過去へタイムスリップさせてくれるし、世界料理は海外へテレポーテーションさせてくれる。美味しい料理を口にすると天にも昇る気持ちになるし、思い出深い味を口にすると胸をキュッと締め付けられてセンチメンタルになる。
五キロメートル四方が田圃と花畑で囲まれた田舎に建つ実家のダイニングで、花瓶に飾られた一輪の向日葵を見つめながら咲乃は思いを巡らせていた。向日葵はお母さんが一番好きな花だから、陽光が燦々と降り注ぐこの時期は出窓に飾ってあるのがお決まりだ。
「向日葵の黄色を見ていると、この暑い時期も元気もらえそうだね」
咲乃は向日葵の花弁をツンと指で突いて、手に持っていた布巾をキッチンの天板に置いた。大学入学を機に上京して二年経つけれど、実家で暮らしていた頃から食器の配置も、お菓子の置き場も何も変わっていない。食器棚からつるんと丸い皿を四枚出してコンロに視線を向けると、使い込まれた深鍋から柔らかく白い湯気が立ちのぼっていた。
先から何度もくんくんと鼻を動かしては、お腹が今か今かと音を鳴らしている。鼻孔をくすぐる正体は、その名も『お母さん特製カレー』だ。
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